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 校舎を通り過ぎて10分進んだところに、大きな武道館がある。  一階はトレーニングルーム、二階は武道場、本来の三階部分はスタンド席へ繋がり、道場全体を見渡せる構造だ。  スタンド席の後方の通路にて、手摺りに頬杖をついて眼下を見下ろす。柔道着を着た筋肉たちがずらりと並んでいた。  柔道部のお忍び部活見学に来て候。 「三年は引退したが、受験に本腰を入れるまで定期的に顔を出すつもりだ。指導が欲しいやつはいつでも来い!」 『『ハイ!!!!』』 「二年だからってうかうかしてるとすぐ下の者に先を行かれるぞ! 気を引き締めろよ!」 『『ハイ!!!』』 「一年は日々の鍛錬を怠らず、レギュラー勝ち取るつもりで挑み、そして学び取れ!」 『『ハイ!!』』  うわあ……体育会系ってすげえー……。  元主将・佐々部さんの力強い叱咤激励もそうだが、応える部員の熱気も凄まじい。  テスト週間明けで身体も鈍っている上に七夕祭りのあとなのになんて元気なの……筋肉の恩恵なの……?(戦慄)    観に来てる生徒(チワワかガチムチかの二択だが)の声援も熱い。これが柔道部の通常運行のようだ。  佐々部さんの後ろをてくてくついて回る篠崎くんの姿が視界に入る。何事かを話しかける様子に慕ってますオーラが取り巻いている。  なにあれ構ってほしい子犬? かるがも?  佐々部さんいーなーーかわいい後輩羨ましいなーー。 「──うわっ、もう始まってんのかよ!!」  しかし、高ぶった武道場の空気はある生徒が登場した瞬間急激に下降する。  小柄な身体に大きめの柔道着は一層男を貧弱に見せた。舌を打つ音が聞こえる。 「……げ。佐久間じゃん」 「あいつと同じ部活とか、最悪」 「うわ、カビ繁殖しそー」 「お前達、私語は慎まんか」  ざわめく生徒の言葉の中に紛れる悪口罵詈。佐々部さんの注意で収まったものの、空気の悪さは否めない。  ───召集後のあの宣言どおり、王道は柔道部に入部届を出した。  生徒会なのでそのあたりの情報が回ってくるのも早い。おまけに佐々部さんがわざわざ俺の教室を訪ねて一頻りお礼を言ったあと、テスト明けの今日から本格的に王道を部活に参加させると聞いてもないのに教えられたのである。  入部に関しては俺から提案した手前、ある程度は見守る腹積もりだ。  どこに行っても厄介者扱いを喰らう王道だが、本人は特に気にした素振りもなく平然と佐々部さんに話しかけた。 「よう、拓海。来てやったぞ」 「俺はお前をおおいに歓迎する。では佐久間、早速だが、軽くウォーミングアップしてくれ。それから手合わせ願おう」  佐々部さんへの呼び捨てでまた要らない恨みを買った王道を引き連れ、佐々部さんは道場の中心へと向かう。  準備体操をはじめる王道とそれを見守る佐々部さん。他の筋肉らは緊迫した面持ちで彼らを円形に取り囲む。  なんだろう、出鼻から不穏だ。  

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