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「ルールはいいな?」
「ああ! 覚えてきた!」
「お前には遅刻した罰として校庭20周がすでに課されている。が、俺から一本でも取れたら免除にしてやろう」
「一本でいいのか?」
「勿論だとも」
「よし、乗った!」
「だが、一本"すら"取れなければ無論ペナルティはこなして貰うし、言葉遣いも矯正させる」
……へえ。なかなかの挑発上手じゃないか。本人に自覚はなさそうだが。
来校初日で敬語吹き飛んだ王道にはハードルが高そうな注文だけど、さて一体どちらに軍配が挙がることか。
王道の喧嘩の腕を見るのは何だかんだで初めてで、正直わくわくしている。
にしてもスタンド席まで届く二人の地声のデカさよ。似た者同士かよ。そういえば星座同じなんだよなあの二人。関係あるかどうかはさておいて。
「まずは格式高い柔の技を身につけるまで、喧嘩禁止」
「っえーー!」
「じゃあ────始め!」
だがしかし、とんでもないハンディキャップを開始直前に高らかに告げた佐々部さんにずるっと力が抜けた。
それはいくらなんでも王道が不利でしょうに。喧嘩の腕はそりゃあ立つだろうが、柔道に関しちゃド素人だろ、そいつは。
案の定、ばったばったと倒されるのは王道の方。
小柄な身体が、宙を舞う。
だというのに純粋なのか馬鹿なのか、王道は佐々部さんの無茶な要求に応え、「柔道」で勝負しているようだ。
喧嘩で身に着いた動きに釣られるのか、たまにぎこちなく止まってはその都度佐々部さんに薙ぎ倒されている。
佐々部さんは何を考えているんだろう。
それともこれが柔道部の通過儀礼だというのか。王道が辛うじて受け身を取れているから、大怪我は免れているが……。
「ふふ、ねえ見て、さっきから一本も取れてないよ」
「うわ、ダッサ」
「なんか動きもヘンだし。まじウケるんだけど」
前列に座っていたチワワが王道を指さして嗤う。軽く咳払いをすれば、俺に気付いた彼らはそそくさと席を立った。他の観客も、どちらかと言えば茶化す人間の方が多い。
ただ………見物人は見物人でも、階下の柔道部員の反応は180度違っていた。
「すげ……、」
「うわ……アイツ、また立ったよ」
「佐々部さんのあの技躱したやつ、初めて見た……」
何度も立ち上がる。倒されても、のされても。
何度も、何度でも。
回を重ねるごとに、部員が試合に魅入るのが分かる。道場にじわじわと熱気が戻ってくる。
それは紛れもない闘志。好敵手への、競争意識。
なるほど。
そういうことか、佐々部さんの狙いは。
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