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【槻side】
(爽やかサッカー部一年生の非凡なる一日)
最初に言っておくと。
俺は別段生徒会のファンでもなければ、生徒会を特別嫌っているわけでもない。
同級生の駒井や東谷は、生徒会に憧れるか反感を持つかのどちらかに属する感情を持っているけれど、俺から言わせれば生徒会の人たちは、興味のない芸能人、ってイメージ。
有名だから知っているし、美形揃いだと思うし、すげえ人気なんだな、という認識はある。
けれど、それだけだ。
それ以上に彼らを知る必要はないし、それほど興味はないし、生徒会の動向よりも明日購買で幻のクロワッサンを買えるかどうかの方がよほど気になる。
さらに言えば学園内でオトコ同士がどうだの、誰がかわいくて誰がかっこいいかって話題も、正直どうでもいい(この手の話は駒井が嬉々として俺に振ってくる)。
たとえ男子校だとしも、作ろうと思えば女の子の彼女は普通に作れるし。
まわりが両性愛者ばかりだからって、自分も受け入れなければならない、といった強い意識もない。
俺みたいなのはけっこう、ごく普通の思想だと自分でも思っている。
だが学園ではむしろ、俺みたいな考え方のほうが少数派なのが現状。
俺から言わせれば男子校だからって男に走るひとたちこそ理解できない。けれどハッキリ主張すれば角が立つから、無難に、当たり障りなく躱す。入校して以来ずっと続けてきた習慣。
保守的。八方美人。ことなかれ主義。
上等。それが俺の処世術。
そんな俺に。
思考回路はいたって凡庸な俺に。
学園の頂点に君臨する生徒会組織の副会長 と、1対1で話す機会が訪れようとは。
「……入らないのですか?」
耳障りが良い凛とした声に、惚けていた意識が呼び戻される。
「え! 、あ、入ります……!」
午後練が始まっておよそ一時間。
炎天下のサッカースタジアム。プレイ中に派手に擦りむいた膝をざっと水で清めて、先輩の勧め通り保健室に向かった、までは当たり障りのない日常のはずだった。
保健のセンセって苦手なんだよな、と気が進まないまま扉を開けた先にいる白衣の人物を見て、ぽかんと数秒固まった俺を、誰も責められやしないと思う。
「副……、え、なんで、」
「ひとまず、扉を閉めていただけますか」
「あ、ハイ!」
慎重に扉を閉めながらも、焦りと動揺から手が強張る。
柔らかい亜麻色の髪。抜けるような白い肌。高飛車そうな勝ち気な目元。そして、生徒会役員の証明と言われる黒いネクタイ。
(……──副会長さんだ。あの)
集会やイベント時に遠目に見る以外、偶然でもない限り早々人目に出ない生徒会役員。
深窓のなんとかだの高嶺のなんとかだのという飾り言葉で、その容貌 を誉めそやされる一個上の先輩。
そんな人が、どうして休日に白衣なんか着て、しかも保健室にいるんだ……?
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