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 思い切って足を踏み入れた俺の戦々恐々とした心境を余所に、副会長さんは俺の絶賛出血中の膝に目をやり、形の良いつり気味の眉を僅かに中央へ寄せた。  極度の緊張で無意識に背筋が伸びる。  タイミングずらせば良かった。これでは却って落ち着かない。 「大丈夫ですか? その膝」 「部活で転んだだけなんで。こんなケガ、慣れっこッスよ」  顔ちっさ。髪さらっさら。  腕ほっそ。つーか、白。  相手をひとめ見て浮かんだ感想がコレとは。同性へ送る賛辞と言うには、きわどい。  しかしまあ、人気を獲得する理由も分かる。高等部から入学して一年未満で役員に選出される稀有な存在と謳われるだけあって、なんというか、飛び抜けてる。  清廉とした雰囲気を持ちながらも魔性も兼ね備えてそうな猫科系の顔立ちが、タチもネコもノンケすらも気を引きそうだ。 「槻くんはサッカー部でしたっけ」 「そう、ですけど……俺の名前、知ってたんスね」 「あなたはルイの友人ですから」  あー……。そうだった。  副会長さん、佐久間のこと好きなんだった。  佐久間はこの学園じゃ数少ないノンケ仲間だけど、何故か大物や問題ごとを引き寄せっからなあ……。  あれ、俺もしや副会長さんに嫌われてんじゃね? 名前を知ってるということは、佐久間の周りはリサーチ済みって証拠だろ?  佐久間とつるんでるから邪魔だと思われてっかも。この怪我を見たところで、いい気味だと思われてそうだ。  何せ駒井曰く、副会長さんは『腹黒』らしい。  悪口ならやめろと注意したら、これは属性だから悪口じゃないと言い返されて首を傾げた記憶がある。アイツは時々考えてることがよくわからん。 「……血の量が酷いですね」 「、あ! うっわ、床が……」  下に注意を向けると、歩いてきた道にはてんてんと血液が付着していた。  確か、副会長さんは潔癖だって噂だ。やっべえ、怒らせた……! 「すみません、今すぐ拭きます!」 「いえ、後で私が片付けますので、結構です。あなたは椅子に掛けて」 「、っえ」 「養護教……神宮先生は現在席を外されています。差し支えなければ私が手当てを代行致しますが」  キィ、と回転椅子を引かれ、ここに座れと促される。  ……え、無理。こええ。こんなことさせていいのか、学園の副会長サマに。会長あたりに殺されやしないだろうか。 「……すいません、お願いします」 「どうぞ」  迷ったものの、俺を黙って見上げるアーモンドアイに見つめられるほど不安が煽られ、観念して椅子に腰掛ける。  なんだろ、眼力がすごい。ただ目が大きいってだけが理由じゃなくて、なんかこう、吸い寄せられそうになる感じ。  初対面ではないにしても、相手が生徒会の人間だと意識するほど肩に力が入った。  以前、といっても中間考査最終日の放課後と、立食パーティーのときに少しだけ話す機会はあった。その時は無難に受け答えできたと思うけど、1対1となると緊張感がまるで違う。  しんどい。沈黙がつらい。  

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