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 キャスター付のオットマンへ足を乗せ、膝を立てる。ここに来る前に水で乱雑に洗ったせいか、患部から垂れた血混じりの水がソックスを汚していた。  うう、大雑把だと思われたかも。いちいち副会長さんの反応が怖い。  俺の足に、神経質そうな長い指が触れた。  丁寧に滴る水を拭われた後、水で十分に湿らせたガーゼを傷口に当てられ、土埃などの汚れは再度綺麗に落とされた。  傷に滲みて少し痛かったけど、顔には出さないよう我慢。 「「……」」  ひたすら無言の空間が耐え難い。かと言って場の空気を一掃できるほど能弁ではないので、口を噤む他ない。  その一方、てきぱきと処置を施す相手の指先の動きを自然と目が追った。  捲られた白衣から伸びる細い腕。骨張った手首。滑らかな手の甲と繊細な指の形。縦に長く、丁寧に整えられた桜色の爪。傷や日焼けや毛穴もない、ひたすらにすべらかな白。  男の手のようなごつごつした骨太さはなく、しかし女の子の手のような頼りなく柔らかい印象も受けない。  手に限らず、手首や頚もそう。どこもかしこも、中性的。  やけに目に留まってしばし凝視していたら、治療を終え顔を上げた副会長さんとばっちり目が合ってしまった。慌てて顔を逸らした直後、自分の過ちに深く後悔する。  ワザトらし過ぎた。  看て貰ってんのに感じ悪いな、俺。 「おしまいです」 「えあ、……ありがとう、ございます」 「擦り傷以外に、軽い捻挫もしているようですね。今日の部活動は見学した方が賢明かと」 「……ハイ」  俺の態度に対し何の指摘もなく肩透かしを食らったと思いきや、別の指摘が来た。  止血を終えた己の膝頭を見下ろす。  月城学園の部活生の特徴として、スポーツで将来食っていくつもりでもない限り、どの部もインターハイを終えたら冬の大会まで残らず引退する三年生が大多数だ。  みんなそれなりの家柄にいる以上、目先の部活動より確実な将来設計を重要視するのが当たり前。  まだまだインターハイは勝ち進んでいるけれど、三年生が引退した後にはすぐに新人戦が控えてる。レギュラーを勝ち取るチャンスだ。  わが校のサッカー部は全国でも優勝候補とあり、個々の部員のレベルも高い。中学ではキャプテンに選ばれた実績もあるし、一年では頭ひとつ抜きん出ている自負はあれど、それに胡座をかいてるようじゃ強豪校のレギュラーは勝ち取れない。  口では承服したものの、副会長さんには悪いけど、こんな軽い怪我で他の部員に遅れを取ってたまるものか。  曖昧に頷く俺に副会長さんがこっそり溜息を吐いたことを知る由もない俺は、他の話題でお茶を濁すことにした。 「こういうの、慣れてるんスか?」 「と言いますと」 「あ、えっと、手際がいいなあと、思って」 「ええ、まあ……喧嘩っ早い人間が周りに多いもので」 (……うわ。なんか、今)  柔らかくなった、気がする。  主に表情と雰囲気が。  誰のことを思い浮かべたんだろうかと、伏し目がちな顔を見詰めながらぼんやりと思う。  

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