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白い頬を盗み見る。
同性の要素も異性の要素も持ち合わせた造形に、何となく目が奪われる。中性的なルックスを持つ人間には男にも女にもない特有の引力があるときくけれど、それが要因なのだろうか。
……いやいや、それでも相手は男だ。
しっかりしろ、俺。
応急セットを片付け始めた副会長さんを何故だかぽーっと見つめてしまった自分を正気に戻すようにと、首を横にぶんぶん振って雑念を払いのけた。
こんなことを考えていれば駒井に「それはきっと恋だよ!!」と飛躍した暴論を振るわれてしまう。
正直、常に同性愛を前提とした考え方は好きじゃない。
そもそもこの学園の在り方そのものが異常だ。少なからず偏見があることは自覚している。正常なはずの異性愛者(自分)の方が時に肩身が狭く感じる日々にストレスを覚えている。
(副会長さん………は、確か、外部生だったよな)
俺自身が中等部入学で、当初同性愛が当然のごとくのさばる無法地帯に愕然としたものだ。
彼はどうだったのだろう、と思考の海に身を投じていた俺に、部屋の外の空気が動いたことなど気付く余裕もなく。
「───なあ、リオ。俺の目を掻い潜って一年坊主と浮気とは、いい度胸だな?」
驚きのあまり目を剥いた俺を一体誰が笑えようか。まるで情事の最中を思わせるような、吐息が混じる低い声が、副会長さんの名を呼んだ。
この声。扉の外───まさか。
「遅いんですよ会長。で、結果は? その右腕、悪化してたらタダじゃ置きませんからね」
ひょい、と首を動かして俺越しに副会長さんが返答する先には、ポケットに両手を突っ込み、扉に寄りかかって不敵な笑みを浮かべるこの学園の生徒会会長さまの姿。
うわ、本物だ。気怠げに佇む様がここまで絵になる人間もそういないだろう。
くしくも学園のツートップとご対面なんて。その上……浮気って……。しかも肝心の副会長さんは完全にスルーしたし。
これ否定しなくて大丈夫?
それともこういうやり取りが日常茶飯事?
「治ってるに決まってんだろ。俺様の治癒力舐めんな」
「牛乳(笑)」
「だ、ま、れ」
「ちょ、ひゃめて下さい」
つかつかと長い足を動かして脇目も振らず歩み寄った会長は、大きな両手を副会長さんの頬へと伸ばし……なんと、左右へ引っ張った。
その間、横を通り過ぎたにも関わらず俺には見向きもしなかったという。浮気だなんだと言いつつ、実のところ眼中にないらしい。
というかコレ……退出するタイミングを完全に逃したな……。
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