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例えこっそり部活に参加したとしても副会長さんはまだ大目に見てくれそうだけど、生徒会会長様からハッキリ見学を促された以上、一生徒が逆らえるわけもない。
今日はしっかり休んで、この夏は自主練に費やす時間を増やそう。
いやその前に、ここから競技場まで確実に誰とも合わないルートを模索せねば。生徒会役員と関わった直後だし、できるだけ人目は避けたい。
校舎を迂回して、裏道を通って、それから……。
「───槻くん」
シミュレーションに耽る俺へと掛けられた、凛とした耳障りがいい声。その時は不思議なほど、すべての意識が彼に惹き付けられた。
白くなやましい細首が、幼い仕草でこてりと傾ぐ。
ひとたび大きな目が柔らかく細められたならば、途端、普段の取り澄ました孤高の美にあたたかさが吹き込まれる。
陽の光が彼の上に差し込んだ。まるで一枚の絵画のように、神秘的で優しい光。
そして。
皺ひとつ、ひび割れひとつない、同性が持つにしてはあまりにも艶やかな彩を纏う薄紅の唇が。
ゆうらりと、いっそ焦れったいほどに、甘く笑った。
「お大事に」
────彼こそが。
思考回路はいたって平凡な自分を。
埋没しきった個の価値観を。
波風のない生き方を。
協調性と八方美人を繰り返す平穏な高校生活を。
衝動、焦燥、能動という感情に縁のなかった俺自身を。
引っ掻き回す使者となり。
眠れる自我を呼び起こす引き金となり。
自分でもどうしようもないほどに、大きな大きな存在になることを。
このときの俺は、まだ知らず。
ただ、やけにスローモーションで網膜へと焼き付いた光景に言葉を失っていた俺の目前で、懲りずに再開された口論によって隠されてしまったその人の微笑みを……惜しいなと、思いながらも、再度確かめる領域に自分がいないことを、自覚している俺は。
会長さんの身体ですっかり遮られた副会長さんに向けて小さく礼を言い、足早に保健室を出た。
「噂で聞くよりずっと、………怖い人ではない……っぽいな」
なんて。
部活に戻る道すがら、綻ぶ口許を隠すことなく、そんなことを一人呟きながら。
* * *
” …なぁお ”
「ほら見ろ。お前らが騒ぐせいでノアが起きちまっただろが」
「騒ぎの元凶にそう申されましても」
「副かいちょォ、実はそいつな、昨日の脱走を受けてチビに対してちィと過保護になってンだよ。許してやって」
「……」
「その無駄に温かい目はヤメロ」
* * *
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