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それを言うと俺だって巧く指導できるか不安だし、付きっきりで世話とか勘弁なんだが……教え方次第で仕事が捗る可能性もある。単純に考えれば人手が増えるわけだし。
遅かれ早かれ三年二人が抜けた穴埋めは必須なのだから、これも経験と思っておこう。
「候補の基準は?」
「「りっちゃんが好きに選んでいいよ」」
「逆に迷いますね……」
ぽつぽつ質問と雑談を交えながらひとまず仕事へ戻る。
先に終了したのは双子の方だった。
無造作に机上を占めていた書類の山が総て判を押され、きちんと仕分けが済んでいる。
「りっちゃんおわったー」
「りっちゃん今なんのお仕事してるのー?」
「二年生が主体となった部活動の新体制や再編に関わる諸々とした調整作業です」
「それ僕らでもお手伝いできる?」
「僕らに手伝えるお仕事なあい?」
腕時計を確認したところ、そろそろ昼休みに差し掛かる時間帯。
提出期限が危うい書類は双子が処理したもので全部だし、4連休があったおかげで煩雑な業務も粗方片付け終えている。申し出は有り難いが、双子はあくまでサポート役だ。必要がなければ長時間の拘束はしない。
ちなみに俺は自分の仕事が昼までかかると予想してたので、昼食はすでに注文した。
生徒会の優遇措置の中に食堂の宅配サービスがあるのだ。
「お二人共、ご苦労様です。先にお昼休憩に入ってどうぞ」
「「やった!!」」
「談話室いこーー!」
「ノアといっしょにごはんーー!」
頬杖をついたまま、出入口を足取り軽く抜ける双子の後ろ姿を流し見る。
完全に一人になると、チェアに背中を預けて小さく息を吐いた。
(俺の好きに選んでいい、か……。「王道 を候補生にしよう」、とは、言わないんだな)
(まあ、ここ最近の双子の興味は、全面的にノアと過ごすことに向いているんだろうけど……)
七夕祭りの一件以来、また同じ脱走事例が繰り返されないようにと、ノアの今後については生徒会役員と守衛さんを交えてよくよく話し合った(反省文もその時に)(志紀本先輩の狙い通り、それはまあ効いた)。
根本的な環境の見直しは当然として、双子が提案したのは「ノアに寂しい想いをさせないこと」。
ここ最近はその標語を有言実行し、空き時間には構い倒している場面を度々目にする。
しかしそれと引き換えに、双子はここ最近、王道との絡みが極端に減った、らしい。
先月の《月例会議》で志紀本先輩から提示された『交流禁止』案を飲むなら、双子がノアに夢中な現状はいい傾向、といえるのだろう。
双子はその実、飽き性だ。
そんでもって気分屋。
引っ掻き回すだけ回して放置、なんてこともザラにある。
しかし俺が以前見た印象では、双子と王道は「ともだち」として上手く付き合っていたように思う。あの二人が本気で王道と「ともだち」付き合いを続けるつもりなら、いずれまた王道に構い出す日が来るだろう。
そうなったらそうなったで、俺個人としてはあまり口を挟みたくないのが本音だ。
志紀本先輩の意見に逆らうようで正直怖い……のだが、それでも、俺の根本的なスタンスは変わらない。生徒会も一人の人間、誰と交流を持とうが自由だ。俺たちは偶像じゃないのだから。
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