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 学生にとって一番歴然とした『頂点』は、順位を付けて張り出される定期考査の成績。生徒会候補の選別にあたって、学力の高さは当然要求される。  一年の期末の順位の入れ替えは中間よりも激しい。しかし日々の積み重ねとはそう易々と覆るものでもない。証拠に、中間と期末、上位10名の変動はほとんどなさそうだ。 (この中で俺が実際に会って話したことがあるのは5人……指導する身としては、完全にはじめましての状態でスタートするよりは顔見知りの方がまだ楽なんだけど……)  一人め。一位、佐久間ルイ───却下。  成績や能力以前に、こいつを生徒会入りさせようものなら今度こそリコールが起きますわ。長期休暇を前に波乱なんぞ起こしてたまりますか。  二人目は三位、篠崎くん。さすが、外部入学の特待生枠とあって優秀だ。  俺としては歓迎なんだが、まあ……本人が断固として拒むだろう。部活動も忙しそうだし、何よりお仲間に情報を横流しされそうなので却下。  三人目は五位の駒井ちゃん。  可愛いコが会長とマツリの餌食になったら可哀想なので却下。あとお仲間に以下略。  四人目。八位・東谷(おつむはいいらしい)。  圧倒的に協調性が足りない。俺があれを指導するとか超いや。  そして五人目、十位・槻くん。  まさに文武両道の彼は学生のお手本として生徒会に欲しい人材だが、ゆくゆくは部内で重要なポジションに就きそうだし、今回は見送ることにする。  10名中5名を除外。となると残るは5名だ。  上位の名前の欄に目を滑らせる。考査結果・一年生の二番手は。 「………結城(ゆいらぎ)くん、な」  一年Sクラス・結城(ゆいらぎ)琥狛(こはく)。  噂程度に知ってはいる。中等部から持ち上がりの生徒で、一年ではまだ3隊しか発足してない親衛隊の中で一番規模が大きい。  教師からの評価や様々な記録を分析してみたところ、受ける印象は「人当たりが良く優秀で真面目」。ルックス・評判・社交性も申し分ない。 (オールクリア、かな。……少なくとも、データ上では)  顔よし。スタイルよし。成績よし。家柄よし。評判よし。適正よし。  優秀。文句のつけどころがないほどに。  これはもう、会って実際に話してみるしかないか。  断られたら仕方ない。ほかをあたる。  にしても、スカウトのためとはいえ初対面の相手に自分から会いに行く機会なんてこれまでそうそうなかった。アポは必要だろうか。いやでも連絡先を知らねえ。  果たしてどんな生徒なんだろう。  叶うことなら、従順で気がきいて常識人で優しくて俺の愚痴を聞いてくれるような癒し要員の後輩だったら俺が嬉しい。  高望みかな。どうかな。  例え理想どおりとはいかずとも、最低限、個性派揃いの現生徒会や生徒からの注目に物怖じしない度胸があればいい。 「、と。そうだ飯」  顔を上げたタイミングで、アナウンスが来客を知らせる。  液晶モニタで確認した相手は予想通り、昼食の宅配人である食堂のウェイター。  遠隔操作でセキュリティシステムを解除して、仕事場から出てすぐの長い通路を足早に通り抜ける。  その先の待合室で寛いでいたのは、爽やかそうな黒髪のお兄さん。 「久しぶり、くぅちゃん」 「……その呼び方、やめて下さい」  彼が来るだろうなとは、予想していたけども……。  何度言えば呼び方を改めてくれるんだろう。支倉のくを取ってくぅちゃんなんだと、一年前に勝手に呼ばれ始めた俺の渾名だ。 「ひとまず応接室にお入り下さい、黒木さん」  にこ、と優しく笑う大人。  食堂でたまに会うイケメンウェイターの黒木さん(26)だ。  

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