405 / 442

6

*  思い立ったが吉日。  現在時刻、放課後。現在地、1-S前。  新生徒会役員第一候補生のもとへ、突撃クラス訪問に参りました。  案ずることなかれ、王道(と篠崎くん)は俺が一年生フロアに辿り着く前に部活へ急ぐ後ろ姿を確認したので、遭遇の恐れは極めて低い。  篠崎くんあたりから対象のイメージを事前に聞き込み調査する予定だったのだが、柔道部は遅刻厳禁らしいので何も言わずに見送った。  本来ならもっと入念なリサーチをすべきところだ。それどころか対象へのアポも事前通知もない。  でもきっと何とかなる。何せ吉日なので。  要するに、勢いで来ちゃったってやつです。  気が進まない仕事こそ思い切りが大事。  1年Sクラスの教室の中をひょっこり覗く。下校時刻ではあるが、HRの終了が遅かったのか、クラス内には生徒の半数程度がまだ残っていた。  対象の生徒は見当たらない。とりあえず誰か顔見知りを……そう思っていたところ、後方ドア付近の席に駒井ちゃんを発見。  他の取り巻きたちはいない。  槻くんは部活で、東谷はさっさと帰ったと予想。まあ、篠崎くんと同類の種族だと考えれば、駒井ちゃんのリサーチ力にも期待が持てるだろう。 「駒井さん」 「んん? ………、、、ぇ?」 「突然で申し訳ないのですが、何点かお尋ねしてもよろしいでしょうか」  振り返って俺を見上げた駒井ちゃんの顔が、そりゃもうぽっっかーーんとしててちょっと吹いた。  見た目は完全にボーイッシュな女の子。背は160センチ半ばだろうか。双子並にちっちゃくて、大変庇護欲が擽られています。  周りの生徒の注目はひしひしと感じているので、もちろん教室から連れ出すような愚行はおかさない。  ちょっと挙動不審になりながらも、俺を見上げて首を傾げる駒井ちゃん。不安そうな下がり眉と垂れ目がおどおどと俺を見上げている。ふわりとした黒髪が揺れてなんだかとっても庇護欲が以下同文。 「結城琥狛(ゆいらぎ-こはく)くんが現在どこにいらっしゃるか、ご存知ですか?」 「え……っと、ゆい、結城くんは……多分、職員室だと思います……今日、日直だったから……」 「そうですか。……ちなみに、駒井さんの目から見て、彼はどんな生徒だと思います?」 「へっ……、もっ、もしかして、結城くんにご興味が……?」  あーっちゃーー……そうだ腐男子ってこういう変化球もあるんだったわー……。  腐男子語録における「興味」は特別な意味を孕むと相場は決まっている(byリウの寝言シリーズ)。  まだ候補生として誘いをかけたわけでもない段階で、不可解な尾鰭背鰭が脚色されたウワサが広がるのは避けたい。  ここの腐男子情報網はすごいとリウも言っていたくらいだし、彼の誤認が一度お仲間に発信されてしまえば取り返しのつかない惨事となる。 「駒井さん、一応誤解のないように言っておきますけd、」 「あっあっあの、結城くんは確かに格好いいと思います。身長高いし頭いいし要領いいし友達多いし、僕が授業中聖書(BL小説)の読破に耽ってる最中に先生に当てられたときもコッソリ答え教えてくれたし、困ってるクラスメートに気付いたらフォローしてくれるいい人だけど! やっぱりまずはちゃんと会長様と向き合われた方がお互い傷つかずに済むと思いm」 「…───何の話?」  ちょっとさいごのほうなにいってるかぜんぜんわからない駒井ちゃんの熱弁を遮る第三者の声が、すぐ斜め後ろから。  

ともだちにシェアしよう!