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 少年から青年に変わるちょうど境目のような、甘さと高さに気怠さを加えた声質、穏やかなトーン。  まんまるとしたつぶらな瞳をさらに大きく見開いて俺の背後を呆然と見上げる駒井ちゃんの視線の先を追い、俺も声の持ち主を振り返った。  軽くワックスで整えられた柔らかそうなチャコールグレーの洒落た暗髪。  180前後の高めの身長(チッッッッ)。  適度に着崩された制服。  黒目が大きめで口は小さい。犬か猫かっつったら、猫っぽい系統のツンとした顔立ち。  個人データの顔写真よりも実物で見た方がさらにイケメンくんだ。  彼が結城(ゆいらぎ)琥狛(こはく)くんで間違いない。  他所行き用の笑顔を貼り付けて、彼の方へ身体ごと向き直る。 「……はじめまして、結城くん。突然で申し訳ありませんが、実はこの度、あなたにお話がございまして」 「俺に、ですか……?」 「ええ。駒井さんにはその件で少しばかりご協力をいただいていたところでした。ところで……今、お時間はありますか?」 「ああ……ハイ。部活やってないんで、大丈夫です」  本人の居ぬ間にこそこそ聞き込みしていたことを暗に伝えたのに、それに応答する結城くんの表情は感じの良い笑顔つき。  無表情だとクールに見えるが、笑うと途端にかっこかわいい印象に変わる。  年上ウケが良さそうだ。まだまだ成長期真っ最中のようだし、家柄も申し分なし。かなりの優良物件である。  それにこうして言葉を交わしてみた印象としても、優秀で真面目という教師陣の評価とは裏腹に堅すぎる印象もない。  けっこう砕けてるし、比較的話しやすいタイプかも。  場所を変えましょうか、との提案に二つ返事でオッケーが来る。ひどく動揺した様子で俺らを見守る駒井ちゃん(一体どんな「お話」を想像していることやら)に簡単に挨拶を済ませ、1-Sの教室を出た。  場所を決めかねた末に入ったのは近くのカフェテリア。  食堂との往復距離を考えて階ごとに設けられた無料サービスである。こちらも『役職持ち』特権で、予約せずともいい席が確保できる。  放課後ということもあり比較的混んではいたが、まわりの視線を背負いつつも、淡い色の衝立で仕切られた奥のテーブル席に辿り着く。頼んだ飲み物が来るのを待ってから、テーブルを挟んでスツールへ腰掛ける相手へと本題を切り出した。 「この時期に生徒会役員からの呼び出しとなると、話の内容はおおよそ見当がついているかと存じますが」 「はい」 「単刀直入に申し入れますね。新生徒会役員の候補生として、あなたを是非にと考えています」 「……」 「返事は急ぎませんが、遅くとも一週間後には戴けると助かります」  賑わうカフェテリアの中で、ここだけゆったりとした沈黙が流れる。  結城くんは少し悩んでいる様子。  今後の生活に大きく関わることだ。生徒会入りすることで生徒からの支持や内申などの良い側面もある一方、重責や多忙などによる負担も生まれるわけで、こちらは二つ返事でオーケーとはいくまい。  まあでも、あんまり驚いた様子もないみたいだから、生徒会からスカウトされるに足る自分の有能さについてはある程度自覚しているのだろう。  自分の価値を正しく認識している点においては、生徒会役員の適正として非常に好ましい。  あんまり見詰めるのも失礼なので、頼んだカフェラテに目を落とす。  あ、ノアの顔がマキアートされてる。いい仕事しますなあ。 「……そのお話は、まあ、引き受けてもいいんですけど、」 「けど?」 「ただ、いくつか質問してもいいですか」 「ええ。何でもどうぞ」  どんとこい。  意外とさっくり得られそうな良い手応えに満足しつつ、先を促す。対する結城くんはというと人当たりの良い笑みを崩すことなく、さらりと口を開いた。 「生徒会に入る上での、利点(メリット)は?」  ………おやあ?  

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