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 第六感が反応したものの、特に表情には出さず、ひとまず質問について考える。一般生徒から見た生徒会入りの有益な側面、と言えば。 「メリットと申しますと……『優遇措置』のことでしょうか?」 「はい、多分それのことです。噂だと、高等部の生徒会は授業免除とかもできるんでしたっけ? スミマセン、俺、候補生になるのはいいんですけど、生徒会のことあんまり知らないんです。他に何かありますか?」  まあ、筋は通っている。勧誘された組織について詳しく説明を求めるのは当然で、きっと慎重なのだと思う。  ただ、なんというか。  普通の感覚なら「生徒会候補とはどんな業務(こと)をするのか」が一番に気にかかりそうなところを、真っ先に『メリット』や『デメリット』といった損得勘定を気にしちゃう時点で、「人当たりの良い優等生」というイメージから一気に「打算的なタイプ」という印象に塗りかわってしまう。  なんだか一度疑ってしまうと全部、なんか、「嘘」っぽい。俺の直感が同類の気配を嗅ぎ取っている。  ……いやいやいや、きっと考えすぎさ。  周囲のメンツが濃すぎるあまり構えすぎているだけさ。生徒会に腹黒キャラは二人も要りません。 「えっと、そうですね……生徒会に入れば、仰る通り授業免除も適用されますし、外出許可の申請でしたり、ここや食堂以外にも様々なサービスの利用時などで、優先的に対応して戴けるようになります」 「それは候補生でも?」 「経過にもよりますが……ゆくゆくは」  それから、俺のような庶民くんには有り難いことに生活費の一部を補って貰えたり、園内で出入りできるエリアが増えたり、様々な組織への干渉も容認されたりと優遇ポイントはほかにもあるが、プレゼンするにはまだ早い。  相手はあくまで候補の候補。食い付くのはこちらではなく向こうからが望ましい。    結城くんはしばらく静かになった。  純粋に悩んでいるような素振りだが、果たしてどんな思考を巡らせていることだろう。  推測ではあるが、生徒会に入る上での結城くんの目的は、生徒会役員にのみ与えられる特典のように感じる。タダでは入りませんよ的な。  特典欲しさに生徒会に入るのがいけないとは言わないが……そうなると手を焼きそう。先の好評価があるだけに、取り越し苦労だと思いたい。  というより俺自身が、まだ希望を捨てたくないのだ。  従順で気がきいて常識人で優しくて俺の愚痴を聞いてくれるような癒し要員の後輩キャラの夢くらい見たっていいじゃないですか! 所詮は夢なんだから!! 「他にまだ特典ってあります?」 「現段階(・・・)でお教えできることは、ここまでです」 「……候補生ですらない相手には教えられないってことですね」 「……」  ほう。ここで言外に含ませた裏の意味まで読み取れるとは、なかなか察しがいい。  おかげさまで───まんまと、引っ掛かってくれた。 「続きは、どういたしますか。ここから先は仕事の話が主になりますが」 「……お願いします」 「ありがとうございます。では、早速ですが生徒会室へ。まずは中の案内を致します」 「わかりました」  兎にも角にも、生徒会にとってプラスに働く人材ならそれでいい。むしろ肝が据わっていて何よりだ。結果オーライ!  カフェラテを飲み干してから席を立つ(結城くんが頼んだエスプレッソも奢った。サイフが寂しくなった)。  生徒会室を目指す俺の背後、後に続く彼が嘲るように呟いた一人言を拾い、気付かれないように薄く笑った。 「……チョロいな、案外」  まあ、そっちがそのつもりなら存分にコキ使ってやるまでのことですがね(したり顔)。  

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