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 放課後に入ったばかりとあって、まだ夕方というには空は明るい。  生徒会室の執務室に結城くんを引き連れ戻ると、そこにはソファですよすよ夢路へ旅立つ書記と、その傍で油性ペン片手に悪戯を企む双子補佐のほほえま……いや、これは現行犯たちの紛れもない犯行未遂現場だ。未然に阻止。 「……お二人とも、何をされているんですか」 「あっ、あれーりっちゃん!」 「まっ、まさかその後ろの子!」 「話を逸らさない。まずはその油性ペンを片付けましょうね」 「「はあい……」」 「お見苦しいところを見せてしまいましたが……結城くん、ご存知のこととは思いますけど、一応紹介致しますね。そこの二人が生徒会補佐を務める兄の橘ソラ、並びにウミで、そこの寝ている一人が書記を務める横峰です」  お邪魔してます、と丁寧にお辞儀する結城くんをしげしげ眺める双子の兄弟。どうやらわんこへの悪戯より新顔の一年生へと興味がシフトチェンジした模様。  きゅるりとした小動物のような瞳たちから一心に見つめられ、結城くんは何だか居心地が悪そうだった。  わかるぞ、その気持ち。  双子の「新しいもの」への目敏さと感心の比重度は驚きを通り越してちょっと引くくらいだ。  助け船のつもりで、この場は俺が舵をきる。 「こちらは生徒会候補生……の、第一候補の方です」 「りっちゃんもう探してきたんだー」 「さすがりっちゃん仕事がはやーい」 「とはいっても今は返事待ちの状態ですから、まだ彼で決定したわけではありませんよ。明日には彼以外の第二・第三候補にも声をかける予定ですし」  「「え、そうなのー?」」と双子が目を丸くする中、ちらりと、「第一候補生」からの視線を頬に感じた。  そんな話は初耳だ、と言わんばかり。  本当は第二も第三も現時点では居やしない。が、しかし、ナメられたまま順当に生徒会入りなどさせてやるわけがなかろう。  利点(メリット)次第で生徒会入りを断るような人間。仮にも今後指導係になるかもしれない相手(おれ)を陰で軽んじる態度。  そんな姿勢のまま学園の生徒会(トップ)の一員が務まるとでも考えているのなら、悪いが見込み違いだ。  別に、「優等な一年」だけなら他にもいる。  たっぷりの間を持って、俺より少しばかり目線が高い結城くんの視線を受け止め、完璧なアルカイックスマイルで応えた。 「先ほど申し上げた通り、返事は急ぎませんからね? 結城クン」 「……」  …────あくまでも、「品定め」しているのは候補生(おまえ)じゃなくて、生徒会(おれたち)である。  そこはきっちり、(わか)らせてやらないと。  

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