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今回の候補生は「庶務」として育成する方向なので、コピー機やスキャナ、シュレッダーなどの機材の位置、作業室に収納された小道具など、今後必要になるだろう説明は漏れがないよう細かいところまでに及んだ。
普通は一般公開されない室内というだけあって、結城くんは純粋に興味津々といった様子で俺の説明に適度な相槌をうつ。
「想像してた以上に広いですね……」
「紹介したのはまだ二階部分だけで、一階には資料室、三階にはプライベートルーム、そして四階には物置があります。……まあ、候補生が入室を許されるのは、現段階では一階・二階のみとなりますが」
「金かけすぎでは?」
「同感です」
一階や二階はまだしも、三階の個人それぞれの部屋や四階のもはや物置き呼ばわりのやたら広すぎる無駄空間はさすが金銭感覚狂いの設計だと思わざるを得ない。
そのあたりの感覚は富裕層でありながらも常識を弁えているらしい。
これに関しては意気投合できそうだ。
二階はあらかた見て回ったので、次は螺旋階段を降り、過去の資料や文献等が保管された資料室へ入る。
白を貴重とした資料室。
ここには窓がなく、人の出入りをセンサーで感知して点灯する仕組みになっている。ランタン型のランプの光が大理石の床に反射し、より部屋を目映く明るく印象づける。
掃除は行き届いているし収納スペースもしっかり確保されてはいるが、なにぶん広くて収容量も膨大な上頻繁に資料を引っ張り出すので整理整頓が追いつかないのがネックな場所である。
厳重な扉を閉め、まずはざっと資料室の広さを知って貰おうと足を進めていたところ、俺の後を従順について回っていた結城くんがここで初めて足を止めた。
「副会長さん」
「はい、なんでしょう」
「俺はまだ候補生の候補、って段階なんでしょう? そんな人間を、生徒会室にここまで立ち入らせていいものなんですか?」
「と言いますと」
「生徒の個人データや生徒会の弱味でも握ってバラしてやろう……とか、俺が思ってたらどうするんですか」
本当に悪巧みを考えているやつは普通、自分からそんなことを言ったりしないのだが……部外者をこの場所に立ち入れる以上、警戒すべき事柄であることは確かだ。
くる、と振り返って結城くんの顔を仰ぎ見る。
さらりとした口調ではあるが、俺の行動に対して懐疑的なのは見て取れる。はたまた、危機感がないと指摘されているのだろうか。
それならば何とも笑える話だ。
にこりと愛想良く笑って、ぴしゃりと言い放つ。
「勘違いなさらずに。今日招き入れたばかりの生徒が主導権を握れるほど、甘い組織ではございませんので」
敢えて嫌味っぽい言葉を選べば案の定気に障ったらしく、細く短めに整えられた眉が僅かに中央へと寄せられる。
これもまた、駆け引きだ。
周囲を欺くこの「優等生」の面皮を、はてさてここでどこまで剥がせるか。
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