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───この学園において生徒会とは、言うなれば「国政」だ。
内閣府というよりは、王制。
学園の最高機関は理事会なので、生徒会は厳密にいうと「王」ではないが、学園の統治権は代々生徒会が保有している。
国民は生徒。
国庫は学費などの諸費や投資金・寄付金。
特権階級ばかりを揃えた、さながら小さな独立国家。
まあそのあたりの大げさな例え話はさておいて。これから説明するのは学園の国政、つまり生徒会業務についてだ。
生徒会のおおまかな仕事は、3つ。
まずひとつめが、『環境整備』。
例えば学習機材やカリキュラムなど、全校生徒に関わる導入システムのすべては生徒会が最終決定を行う。
衣食住の面でも同じく、施設内に展開している雑貨店や娯楽、クリニックなども生徒会が管理し、場合によっては学園内部または外部からプレゼンターを招くこともある。
例えば建築、食品、ブランド、人員、科学技術。一人一人が何かしらの地位に立つ学園生の誰かの目に止まれば、それだけで箔がつく。そこにビジネスが生まれる。だからこそ厳しい検問が必要なのだ。
そういった「貿易」「外交」といったでかい仕事は、主に生徒会会長に一任されている。何故なら学園生に必要か否かの取捨選択の見極めには相応の「眼」がいるし、とにかく動く金が大きい。その点、かの神宮財閥ご令息様の見識高さに関しては申し分ないだろうなと思う。
さらには起こり得る緊急事態(犯罪者の侵入、病気の蔓延、立地的には山火事や水害・土砂崩れなど)を未然に防ぐための安全管理にも目を配っている。
例えるなら「国土交通省」「防衛省」「気象庁」の役割を果たす委託機関がそれぞれにあり、それらを取りまとめているのが生徒会なのだ。
「整備」する範囲にはもちろん、学園生一人一人も対象となる。
各担任や各委員会、各部活動の部長、提携組織の責任者に週に一度の頻度で活動記録の報告書を書かせ、何らかの異変が生じてないか審議する。
これを毎週精査するのは生徒会書記の務めで、各組織の内情や前回の記録と合致しない箇所を把握した上で問題点だけ抽出しなければならないので、こちらも根気がいる仕事である。
さらには校内法規の立案・改正・撤廃の権限も持っていて、生徒や各組織の要望を吟味しつつ、生徒がより良く生活・学習できる環境を整えるのもだいじな業務のひとつだ。
これに関しては風紀の審査が入るのでおいそれと変えられるものでもないが。
まあ、この時点でごく一般的な生徒会業務とはとても言えない。
だがしかし、あくまでまだひとつめ。
ふたつめは年間スケジュールの調整・企画・運営・予算管理といった『マネジメント業務』。
新入生歓迎祭などがまさにこの括りとなる。そして困ったことにこの学園はひと月に一つまたは二つの特大イベントを企画するようなくそめんどくせえ校風なので、イベント前後、そして理事会への決算報告の準備に追われる月末はだいたい激務だ。
二つの仕事に共通しているのが、非常に重要な金銭の管理。
歳入は各家庭からおさめられる諸費や寄付金に加え、多くのスポンサー企業からの投資金その他諸々。歳出は設備投資・維持費・運営費その他諸々。
こちらの業務は全般的に生徒会会計の務めなのだが、諸々とした調整が多く変動が大きい仕事で、俺との共同作業も多い。
そんな俺、生徒会副会長の仕事は主に、生徒会組織とそれ以外の組織とのパイプ役と事務方作業。
タツキが「外部の組織から収集した情報を明確化して整理する」役なら、俺は「タツキが整理して生徒会で決議された事柄を外部の組織に通達して折衝する」こと。円滑な協力体制を築くこと。
あとは電話応対、スケジュール調整、仕事の振り分けと進捗整理、資料作成などなど、けっこうこまごまと雑務があり、さらには「副」会長と呼ばれるだけのこともあって、会長代理や会長の秘書っぽいこともさせられている。
そして最後、生徒会補佐は文字通り、全業務のサポート役。
遅れている業務があればカバーし、煩雑で膨大な作業を捌き、役員が作成した資料を整理整頓し、その場その場で状況を読んで臨機応変に対処する。
わりとどこの役職もこなせるオールラウンダーなタイプが向いている。
───そして生徒会補佐と業務内容が似通っているのが、このたび新候補生が就く「生徒会庶務職」にあたる。
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