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 それから30分後。  自分の業務をきりがいいところまで終わらせて(双子もわんこも終始新しい候補生の存在を気にして仕事に身が入っていないようだったので強制的に帰還させた。会長とマツリに至っては候補生の件を連絡したにも関わらず姿すら見せなかった。)、再び資料室に降りる。  長テーブルの上、量そのものは最初と同じだが明らかに整理された形跡がある資料の山が、種類ごとに積まれてあった。  椅子に座ったままの後ろ姿。ところどころふわふわとウェーブを描く後頭部は微動だにしない。  そっと背後から近づく。 「お疲れ様です」 「!」  コト、とテーブルにティートレイを置いて声をかけると、俺の存在に気づいてなかったらしい結城は心底驚いた様子で勢いよく振り返った。  疲弊しきってはいないようだ。集中力も申し分ない。 「あー……すみません、わざわざ用意してもらって」 「いえいえ、このくらいさせて下さい。今日届いたばかりの茶葉なんです。初日から頑張って下さいましたので、あなたには特別に」 「……」  さすがにわざとらしい気の遣い方だと思われただろうか。  まあその、いくらなんでも、研修初日早々に指示だけ出してあとは放置、ってのはなかなか冷たい対応だったなと、詫びも兼ねているんだけども。  トレイの中心にちょこんと載るのは北欧テイストの白とターコイズカラーを基調としたティーカップと揃いのソーサー。どちらかというと可愛らしく華奢なデザインだが、けっこう気に入っている俺専用の紅茶カップ。  結城専用のカップも、いずれは準備することになるかもしれない。 「あ、好みも聞かずに出してしまいましたけど、紅茶は普段飲まれますか? こちらはあんまりクセのない茶葉だと思いますが」 「飲まなくはない、ですけど……。ええと、……すみません、コーヒー派です」 「! 失礼しました、下げますね、」 「でも飲めないことはないです」  そ、そうですか……。  口振りからして、日頃はまったくと言っていいほど嗜まないのだろう。受け取ってはくれたものの、「優等生」ならこういうの無下にできないだろうし、余計なお世話だっただろうか。  だめだ、やはり俺の純攻撃性コミュニケーションが災いして、心を開かれてる気がまったくしない。  結城がカップに口をつけ、湯気が立つ紅茶をゆっくりと飲み下す。どうやら猫舌ではないらしい。そんなどうでもいいことを考えながら、手持ちぶさたな俺は積まれた山の上に手のひらを滑らせた。  ファイルは日付順、書籍は索引順、雑誌はバックナンバー順とそれぞれ山があり、よく見たら至るところから飛び出していた付箋の向きや長さまで統一されている。  

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