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そう結論づけたと同時に予鈴が鳴る。
自席に座らないといけないけど極力近づきたくないAがこんな時どんな顔で近づけばいいのかわからないという顔で近づいてきた。笑えばいいと思うよ。
「あ、ごめんねー棋前 くん。席、勝手に借りちゃってて」
「……別に」
俺が促す前に先にAの存在に気付いて、へら、と誠意の見えない笑顔付きの謝罪を送ったマツリに対し、Aの声音はお固め。
特に気にした素振りもなく自分の席に戻っていくマツリの後ろ姿を見る表情は敵視まではないにしろ、とても友好的とは言い難かった。
これは、生徒会役員かそうじゃないか以前に、真面目なAの性格上、放漫かつのらりくらりとしたチャラ男の性質が肌に合わないのやもしれない。
双子も「「お邪魔しましたー」」とにこやかに去っていくと、Aはやや乱雑な所作で椅子に座り、黒革の背もたれに体を預ける。
「あの会計はいつもあんなにヘラヘラしているのか」
「うーん、まあ……」
あーらら、イライラしちゃってる。
一限目の小テスト、直前に勉強したかったんだろうし、余計になー……。
ヘラヘラ、について否定はしないが、断言し難い。マツリは軽忽な振る舞いが常だがその一方で、Aから向けられていた嫌悪しかり、気付くところはけっこう気付いてっからなあ。
ただの軟派者とたかを括れない利発さを兼ね備えていて、油断ならない。
「まったく……、」
”いけすかないやつだ”、とか、とにかくマイナス方面の感情をぼやこうとしたのだろう。
すんでのところでAはハッと我に返ったように唇を噛む。
同じ生徒会役員である俺の前では、さすがにそれ以上を口にすることは憚られたようだ。
Aは、表に出る表情・態度に関しては仏頂面の鉄仮面がデフォルトな反面、意志感情そのものはわりとはっきり表明するタイプだと思う。分かりにくそうに見えて分かりやすい。
俺とはこうして普通に話してくれるし、生徒CDEともあれ以来交友があるようだし、態度を改めようとする努力は見受けられるのだが。
「すまん支倉……今、お前の友人を悪く言おうとした」
「いいんですよ。それに"友人"じゃなくて、"仕事仲間"です」
「……綾瀬と、仲、悪いのか?」
「いえ? むしろ良好な方かと」
頭上に「???」マークを浮かべるAの疑問に答えてやることはせず、ただ誤魔化すように微笑った。
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