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 あっという間に時間は過ぎ、気づけば放課後。  7月も半ば、そろそろ17時に差し迫る頃なのに外は依然として昼間のように明るい。  室内は基本的に温度調節がなされているが、ガラス窓を通して降り注ぐ日差しの強さはやはり堪える。あんまり焼けはしないんだけど、赤くなりやすいのがなあ……。  向かう先は今日も今日とて生徒会室。  比較的余裕がある今の段階で、仕事を前倒して先々まで片付けてしまおうと計画中。  次に控えているイベントは、一・二年合同の夏合宿……という名の小旅行。準備期間はまだあるから、今日はゆっくり過去年度の運営資料集めからはじめよう。  吹き抜けの空間に架かる、下方以外は強化ガラスで囲まれた空中回廊を歩いていれば、反対側から見知った姿。  あれはもしや……。 「奇遇ですね、支倉様」  女神……!  じゃなかった、それは前世の方だ。園陵先輩だ!!  日頃の行いオール5の俺へと神がもたらした歩くパワースポット:園陵先輩に出会えた喜びでうっかり熱中症になりかけたので予定変更、本日の生徒会はお休みにしよう。  園陵先輩の細腕には大きな二つの箱が抱えられていた。この時点で見ない振りというコマンドは俺の辞書にない(但し女・子供・お年寄りまたは園陵先輩に限る)。 「大変そうですね。ひとつお持ちしますよ、先輩」 「見た目ほど重くはありませんので、大丈夫ですよ。支倉様もお忙しいでしょう?」 「今日は元々オフなのでお気になさらず! どちらに運ぶ荷物ですか?」  わりと強引に、しかし手荒にはならぬよう細心の注意を払って、園陵先輩の両腕から上段の箱を奪う。  確かに見た目より軽い。箱が大きいからどうしても両腕が必要になるが、重さだけなら片手でも十分そうだ。  先輩の許可を取って中を覗くと、そこには大量の小袋がぎっしりと詰め込まれていた。  藤色の本体で、口は濃紅の留め紐でしっかり括られている。仄かに香る何かの匂い。サシェ、だろうか。 「それが、校舎内の全室に設置する必要がございまして……」 「全室…!? ええと……これ、何ですか?」 「その……御守り袋です」 「御守り? 必勝祈願とか、受験合格とか?」  この時期となると、部活動生や受験生のためかなあ、さすめが。女神からのご利益があればなんにでも勝てそうだ。  しかし校舎内すべての部屋に配置するとなると……分館や独立棟も合わせて3桁は裕に届くだろう。  そんな重労働を一人でさせてやるわけがない。もちろんお手伝いさせていただこう。  そんな軽い気持ちで話題を広げたことを、果たして俺は感謝すべきか後悔すべきか。  何にせよ表情を曇らせた園陵先輩からもたらされた次の衝撃発言は、俺の身体を震撼させるに十分な威力を持っていた。 「…────《学園の七不思議》という諸説を、ご存知ですか?」  

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