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 俺に答える意思がないとわかると、結城は助け船を求めるように園陵先輩へ視線を送る。もちろん優しい園陵先輩がその訴えを無視するわけがなく。 「一年生はご存知ないのかもしれませんが、この学園には7つの不可思議が存在するとの伝承があります。この小袋は、いわば魔除けでございます」 「へえ、初耳です。高等部にはあるんですね、その手の怪談話。どんな内容なんですか?」  結城が興味津々といった様子ではなしを掘り下げようとする。君には失望したよ。  深掘りするならせめて俺が立ち去ってからにしてほしい。後生ですから! 「残念ながら《七不思議》の詳細については代々、部活動や委員会の先輩・後輩両名の間で引き継がれる習わしがあるのです。ですから結城様、お尋ねになるなら支倉様か他の生徒会の方々に是非」 「エッッ」 「そうなんですか。副会長さん」 「存じておりません」 「そうですか」  とんだ流れ弾がきた。くそが。  誰だそんなふざけた伝統考えたやつ。帰宅部やってた去年の俺が知らずに済んだわけだ。  ということは、いずれ会長やタツキから否が応でも聞かされるはめに……?  俺が軽く鬱になっている最中に、結城は「ではまたの機会に」と、爽やかな後輩モードのまま帰っていった。  その後ろ姿を見送っていた園陵先輩が口元を箱で隠しながら、ふふ、と微笑む。 「なかなか一癖ある後輩様のようですね」 「今の遣り取りでお分かりになるものですか……?」 「そうですね……なんだか、去年の志紀本様と貴方様の雰囲気と重なるところがありましたので」  そう……だろうか?  言われてもいまいちピンと来ない。  「一コ違いの先輩後輩」「教える側と教えられる側」といった関係性までは同じだけれど、俺が結城に手を焼いている一方で志紀本先輩は完全に俺を掌上で転がしてたし、俺のようにたかだか後輩(おれ)の取り扱い方ひとつでここまで頭を悩ませたりしそうにない……と思うんだけども……。  まあ、俺が彼らにとって一癖ある後輩だったことは否定しない。  苦労をかけた自覚は一応あります。 「後輩って、難しいですね」 「支倉様なら大丈夫ですよ。何かお困りでしたら、いつでもご相談に乗りますから。……わたくしでも、志紀本様でも」 「心強いです」  そういえば俺、密接な上下関係にある後輩を持つのはこれが初めてなんだよなあ……。  中学・高校一年目は帰宅部で、特別に仲がいい年下もいなかったし。だからこそどうしても手探りになってしまう。  それと同時に、下がいると思うと何だか背筋が伸びるというか、情けないところは見せられないと、気が引き締まる。  こういう感覚は、悪くないな。  

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