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この手の邪推は腐男子を幼なじみに持ったせいでだいぶ慣れてはいるが、かといってまったくストレスにならないわけじゃない。
どうしてこの学園の人間は誰も彼も恋愛脳なんだろう。
俺にとって会長は上司で、志紀本先輩は大恩ある先輩。別に色恋が絡まなくたって人と人を結ぶ術はいくらでもあるのに、どうしてもう一歩踏み込んだ関係を基準にしようとするのだろうか。
……ああもう、やだな。
「どのような返答を期待されているか知りませんが、私は、」
「佐久間なんとか君以外は眼中にありません、とな?」
「……その通りです」
いよいよ本気で話を切り上げたくなってきた。
そういえば二葉先輩には一度、俺が王道に対してどういう感情を持っているのか揺さぶりをかけられたことがある。
ますます、長話は避けたい相手だ。
しかしまあ、まさか会長と志紀本先輩との関係にまで探りを入れてくるとは。単に恋バナが好きなのか?
大前提として、俺自身が同性愛者ではないと声高に主張できないのが手痛い。度合いはどうあれ王道への好意を公言している以上、どうしたって疑惑の目からは逃れられない。
そもそも『佐久間なんとか君以外は眼中にない』と解っていながら、会長と志紀本先輩どちらが本命かなどと尋ねてくる意味が不明だ。
何が言いたいんだこのひとは。
目的がわからない無遠慮な詮索と、まるで揶揄われているような態度を受けて、知らず知らず己の眼差しが険しくなっていく。
「ところで副会長殿、もうひとつ、質問があるのだが」
「……まだ何か?」
「ほらほら、そう邪険にするでない。数少ない外部出身者の、率直な意見が知りたいだけなのだ」
「率直な意見、とは」
「この学園の在り方について、だな。本来、爪弾きにされてしかるべき同性愛が、まるで自然の摂理とばかりに此処には蔓延っておるだろう? 無秩序を誘発する環境が、この学園でははじめから構築されておる。内部の同性愛を規制するのではなく、外部への徹底した秘密主義を貫くのが学園理事の定めた方針。両性愛者は平均的にも8割という破格の数値。
───お主の目には、この現状 がどう見えておる?」
また下らない揶揄が出てくると予想していたから、思いもよらず真面目な問いかけだったことに面食らう。
大多数の生徒はその在り方を当然のものとしてそのまま惰性的に享受していると思っていただけに、まさかここでその異常性について問われるとは。
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