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 同性愛者が犇めく空間に一年と数ヶ月身を置いているだけあって、俺自身感覚が麻痺しかけている部分も否定はしないけれど………そうだよな、たとえ外部生じゃなくとも、ここの異常性を認識している人間が皆無なわけないよな。  とはいってもこれ以上相手の暇潰しに付き合う気は0だ。  リウが相手の場合はさすがに慣れはしたが……本来なら、進んで話題にしたくもない。同性同士の性別倒錯事情なんてものは。 「考えたこともないですね。急にそのようなことを問われても私には理解しかねます」 「嘘、だな」 「……と、いいますと」 「お主ほど洞察力に秀でた、思慮深い人間が、この学園の特殊さに何も思わぬわけがあるまい。さしずめ『二葉先輩と喋るのめんどくさいからテキトーに話を流しちゃおー』と考えておらぬか」 「過大評価ですよ」 「だが、的外れではなかろう?」  ち。さすがに対応がなおざり過ぎたか。  そりゃあ思うことは山ほどあるさ。  まずはあまりにも閉鎖的すぎる。狭いコミュニティの中で長い期間若い子供らを一ヶ所に集めて生活させていれば例え同性だろうと恋愛に発展することもあるだろう、それはわかる。  だが、本来ならマイノリティとして扱われるところを、あたかも正常とばかりに振りかざすのは如何なものかと思う。  閉じた世界、変化に乏しい環境、無秩序を正当とする価値観・思想。  これらの潜在意識こそが、各方面の生徒を暴走させる根本的な問題に他ならない。  だがまあ、そんなことをこの場で言ったところでなあ……。 「ここで語らったところで、現状が変わるわけでもないでしょう?」 「謙遜かのう。生徒会の影響力をもってしても?」 「他の役員ならまだしも、一般庶民(わたし)ではあてになりませんよ。建設的なディスカッションをご所望なら、会長か風紀委員会にでもご相談なされてはいかがですか」 「風紀には先日ペナルティーうんぬんで脅されたばかりだというのになんと殺生な」 「ならばもうお帰り下さい。ちょうど下校時刻も近付いてきましたし、また風紀のお叱りを受けても知りませんよ?」  あと5分もすれば18時を回る。  18時以降にもなると、原則として校舎内で活動を許されるのは生徒会と風紀委員会のみ。風紀の人間が校舎を巡回する時間帯もそろそろのはず。  できればもうちょっと御守り袋を配って回って、少しでも園陵先輩の負担を減らしたかったのだけれど……残念ながら猶予はあまりなさそうだ。  しかし中途半端な状態で切り上げるのも嫌だし、せめて北棟だけでも完遂させたい。  

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