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第8話
「希望くんも受験生だよね?」
「そうなんですよー」
バラエティー番組にゲスト出演中、司会者のタレントから話を振られて、「大変なんですー」とふわふわと答える。
「ぼく、大学受験したことないんだけど、予備校とか通うんだよね? 仕事あんのに大変だね」
「……えーっと……予備校は通ってないです」
「ん? じゃあどうやって勉強してるの?」
「……」
希望は少し悩んだ。なんて答えようかと、ほんの数秒考える。
『年上の恋人に教えてもらってるんです♡てへ♡』
……いや、だめだな!
希望は恋人がいることを公言してはいないが、隠してもいない。ファンや関係者はそれとなく恋人の存在に気付いているだろう。バレても構わない。何だったら、世界の中心で「この人の恋人が俺です!!」と堂々と叫びたい。
だが、これはダメだ。
いろいろな娯楽や恋人との時間を犠牲にして、勉強に勤しんでいるであろう受験生たちを敵に回してしまう気がする。何浮かれてんだこいつ、って思われる。みんないっしょにがんばろうね、って言っていたのに、これはよくない。繊細な受験生の心を傷つけるわけにはいかない。
希望は数秒間で考えに考え、ぽそりと答えた。
「か、家庭教師……」
放送後、「家庭教師??」「どういうこと? マンツーマンの授業ってやつ?」「言いにくそうにしてたから、普通とは違うのかもしれない」「社長の息子だからCMで見るやつじゃなくてもっとすごそう」「富豪の息子はやっぱすげえな! 専属の家庭教師がいるんだ!」「ご子息だ! ご子息の希望ちゃんだ!」等と少しだけネット上をざわつかせてしまった。
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