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第12話

「ま、まってまってあと二ページだけ…っあ、だめっ! ひっ、アッ! ぁあんっ!」  抑えつけられながら熱を捩じ込まれ、希望はビクビクと身体を震わせる。  先程まで勉強していたテーブルに上半身を突っ伏し、臀部を露出させられていた。手にはまだシャーペンを握りしめ、参考書は開いたままだ。いきなり奥まで突いたが、馴染ませるようにしか動いてくれない。 「あぁっ…! っはぁっ、んぅ……!」 「もういいだろ?」  希望の手からシャーペンを抜き取って、そっと置く。  シャツを捲ると、しなやかに筋肉のついた背中が小さく震えていた。肌のしっとりとした白さに誘われるように手を伸ばし、上から下へと撫でるとビクビクと大袈裟に震える。甘い声をあげて鳴く希望に気を良くして、そのまま腰を掴んだ。 「あっ、ぁあっ……んんぅ…っ!」  ゆっくり引き抜いていくと、きゅうっと締め上げてくる。  ギリギリまで引き抜いて、もう一度たんっ、と突くと、一段と高い声で鳴いて、大きく仰け反った。 「――ッアアァッ! あぁっ! だっ、だめぇえ…っ」 「なにがぁ?」 「ンンッ! …あぅっ…んぅ…っ!」  希望の上半身を抱き抱えて起こす。シャツの裾から無遠慮に手を突っ込むと、腹から胸へを撫でて、すでにぷっくりと膨らんだ突起をきゅっと摘まんだ。希望は身体をビクビク震わせながら、口を押さえる。  必死に声が漏れないようにしているが、先を指の腹で撫でたり、爪で軽く引っ掻くと、ライを受け入れてる肉壁がビクビク震えて、締め付けた。 「ダメならちゃんと拒んでみたら?」 「うっ、んぅ…っ、べ、んきょー、まだっ」 「今日の分は終わったから大丈夫。急に無理すんなって」 「んっ、ぁあっ…っはぁっ…!」  ふるふると震える希望を背後から抱き締めて、耳に唇が触れる近さで囁かれる。 「そろそろ俺も構ってよ」  低い声が耳から全身に響いて、頭まで痺れていく。くらくらする。  希望が抵抗を諦めたことを察し、ライは思う存分希望を可愛がった。  激しい快楽の嵐の中、ああ、今日勉強したことぜんぶ忘れてしまいそうだ、と希望は思った。    ***    希望の頭が左右にゆらん、ゆらん、と揺れている。ふわ、ふわ、と柔らかそうな髪も一緒に揺れた。だんだん揺れが大きくなって、今度は前方にこくん、こくん、と船を漕ぐ。今にもテーブルに頭を打ち付けそうだ。    アキは、事務所の一室で、迎えを待つ希望と一緒になった。すでにほとんど夢の中にいる希望を、アキはハラハラしながら心配そうに見守っている。 「……希望くん?」 「ふあっ」  びくっ、と身体を揺らして、希望が目をぱちくりしている。 「……大丈夫? 疲れてるの?」 「……アキさぁん……」  控えめに覗き込むアキの線の細い綺麗な顔と優しく柔らかい声に、希望は思わずうるっ、と瞳を潤ませ、泣きついた。    ***    ライが家庭教師になってから二か月が経っていた。  成績が下がったり、ミスが多いとお仕置きとして酷くえっちで恥ずかしい目に合うと思い知らされたので、希望はお仕置きされないように必死に勉強した。ライの指示通りに課題をこなし、時折特製の試験をしていけば、成績は上がる。それは間違いなかった。  しかし、そうやって頑張れば頑張った分だけ成績が上がれば、今度はライへの『ご褒美』を要求されて、ご奉仕しなければならない。すなわち、とてつもなくえっちで恥ずかしいことをさせられるのだ。  お仕置きもご褒美もぜんぶ、えっちなことだ。違いなんて、恥ずかしいことをされるか、恥ずかしいことをさせられるかというだけ。希望には逃げ場がなかった。    希望は今まで、えっちな肉体労働も、勉強も、何とかこなしてきた。もともと頑丈だし、心身ともにタフな希望だから、どんなにひどく辱しめられ、いじめられ、気持ちよさで蕩けてしまっても、乗り越えられた。  もしかしたら、ライが勉強の時間と希望の体力を綿密に計算した上であんなこともこんなこともさせていたのかもしれない。壊れたら遊べないから、ギリギリまで弄ぼうとしているのかもしれない。    しかし、そうだとしても、二か月も経つとさすがに限界だった。    ***   「もう体力もたないよぉ! アキさぁんどーしよぉ……」 「希望くん……」  洗いざらい話して、うるうるとした瞳で見つめる希望に、同じくアキも瞳を潤ませる。  希望くんがこんなに追い詰められて、なんて可哀想なんだろう。許すまじライ。やっぱり刺し違えてでも仕留めなきゃいけないかもしれない。 「なんであいつに頼んで無事で済むと思ったんだよ」  部屋の中心にいる二人から離れた窓際で、関わらないようにしていたはずに唯が独り言のようにボソッと吐き捨てる。  アキも同じことを思わないでもなかったが、頑張っている希望を労ってあげなければいけないから、決して口にしないと決めていた。希望は聞こえないふりをしているようなので、アキも聞こえなかったことにする。 「希望くん……」  アキは椅子から降りて、ソファの方へ向かう。希望が「アキさん?」と首を傾げて目で追うと、アキはソファにそっと座った。  アキのきゅっと細い足首から、鍛えすぎてなくてすらりとした足を見ていると、少し柔らかそうな太股をぽんぽんと優しく叩く。   「……少し休む? おいで?」 「はぁ――いアキさぁーん♡♡♡」    ごろにゃぁ――ん♡♡♡と言わんばかりの笑顔で、希望はアキの膝枕に頭を乗せた。中身も髪もふわふわとしている頭を、アキは優しく撫で、慈しみを込めた眼差しで見つめている。  希望は幸せだった。追い詰められてぎりぎりまで搾り取られていた心も身体も、あっという間に暖かく満たされていく。 「アキさんの膝枕やわらかぁい♡」 「ええ……? ちょっとはずかしいなぁ……」  ほんのり頬を染めるアキに、希望は心がふわふわした。  なんて可愛らしい人だろう。膝枕は柔らかいし、頭を撫でてくれる手は細くて白くて優しい。 「ライさんなんて膝枕は丸太みたいに固いし、ちょっとくっついただけですぐえっちなことするんだもん。勉強したい、って言っても滅茶苦茶にされるし、一晩中離してくんないし! それなのに朝早く叩き起こしてきて抜き打ちテストしてくるし! ずっとなんとか頑張ってきたけど、もう限界」  ぐちぐちぺらぺらと喋って、希望はため息をついた。  何度も「うんうん、そうだね」と相槌を打ちながら、アキは苦笑する。本当にどうして、ライさんに頼んじゃったんだろう、この子。 「えっと……わからないときだけ聞くようにしたらどうかな?」 「でもライさんといると悪戯されるんですぅ……」 「……う、うん、あのね……? ……言いにくいんだけど、会う回数を減らしてみたらいいんじゃないかな……」  アキが控えめに、ふんわりと、至極もっともな提案をしてみると、希望は目を丸くして、瞳からピカピカッと星を散らした。   「そ、その手があった!!」    ああ、会わないって選択肢はなかったんだなあ。  アキは恋する希望の盲目っぷりを微笑ましく思いながら苦笑した。 「会えなくなるの嫌だったのと、年上の恋人に勉強教えて貰うのってイイな♡って思って家庭教師お願いしたけど、この際仕方ないよね……。本番の試験の前に俺が倒れちゃいそうだもん」 「ああ……そういう理由で頼んだんだ……希望くんらしいね……元気になって安心したよ」 「ありがとうアキさん! だいすき!」  希望は元気よく起き上がった。アキは苦笑しているが、希望を甘やかすことにかけてアキの右に出るものはいないので、暖かく優しい眼差しで見守っている。  例え希望自身の下心のせいで窮地に陥ってめそめそすることになっているとしても、アキの『希望くんを全力で甘やかすぞ』という確固たる決意の前では些末なことであった。    ちょうどその時、扉をコンコン、と控えめに叩く音が響いた。 「失礼します。希望くん、ライさんがお迎えにいらっしゃいましたよ」 「……!!」  マネージャーの優の言葉で、希望に緊張が走った。  大きく深呼吸し、両頬をばちんばちん、と叩く。キリッと強い眼差しは、決して屈せず挑もうという気概が感じられた。  恋人が迎えに来たのに、なぜこんな表情に? と優が不思議そうに希望を見ている。 「アキさん! 俺行ってきます! ガツンと断ってやりますよ!」 「頑張ってね」 「はい!」  希望は決戦に赴く勇者のような気持ちで、ライの待つ部屋へと向かっていった。    ***    部屋の前で胸に手をあて、一度大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。気持ちと呼吸を整えると、ドアノブに手をかけ、勢いよく開け放った。バァンッ! と大きな音が部屋中に響く。 「ライさん、お待たせ! お話があります!!」 「あ?」  ライは大きな音と、更によく響く希望の声に顔を顰めた。  今の希望はライの低く不機嫌な声や顔に怯えることはない。強い気持ちで挑んだから、ではない。    ……はにゃぁ――――ん♡♡♡    ライの姿を目にした途端、希望に恋の落雷が降り注いだ。    今日のライの服装は、白いタートルネックと暗く濃い色をしたジャケットだった。普段は危険でセクシーな、首元が開いている服が多く、大人の男っぽい雰囲気なのに、今はどこか落ち着いていて上品な装いだ。首元が隠れているだけでこんなに違うものだろうか。髪型も服装に合わせているのか、いつもよりしっかりとセットされていた。    俺の彼氏かっこいいー!!  家庭教師っぽーい♡    一瞬にして心を奪われ、思考を支配され、とろんと瞳は潤んで蕩けてしまった。ライに言おうと思っていたことも、すでに全部吹き飛んでいる。  普段の希望は、ぱちぱちと瞬きする度に星を散らして煌めかせているが、今は愛の形、ハートをぽこぽことライへ飛ばしていた。    一方ライは、希望が勇んで「お話があります!!」なんて言うから、出鼻を叩き折ってやろうと待ち構えていた。  しかし希望は、ぽぽぽ、と頬を淡い紅色に染めたまま何も言わない。ただただ、とろんと潤んだ瞳で見つめてくる。  ライは首を傾げてしばらく眺めていたが、すぐに飽きた。 「……帰るぞ」 「うん……♡帰るぅ……♡」 「……?」  ライが希望を見ると、相変わらずうっとりと熱い眼差しを向けていた。  なんだこいつ気持ち悪い、と冷たく希望を見下ろして、ライは歩き出す。  希望はふらふら~と、ライの後についていってしまった。       「ああっ! 希望くん!」  アキはこっそり覗きながら、小さな声を上げる。希望が心配で様子を伺っていたのだ。こうなる気がしていたが、思わず小さく叫ぶ。 「ダメだよ! 君そうやってふらふらついてって歌手デビューすることになっちゃったのに! 僕が言うのもなんだけど!」  アキの熱烈な勧誘でふらふらとついていった結果、いろいろあって歌手デビューすることになった希望。  希望は魅力の暴力に弱い。ときめく心に従って生きている。  アキはそんな希望の背中を、静かに見送るしかなかった。

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