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第14話

 突然だが、恭介はライとユキの同期である。  二人のことはよく知っている。できれば知りたくなかったことも知っている。正直出会いたくなかったし、今からでも構わないので消えてほしいと積極的に願うほどには心底嫌っている。『喧嘩するほど仲がいい』などと言われた日には発言者に対して何をしてしまうかわからない。  命の危険もある仕事なのに、互いに「こいつ邪魔だな」と思いながらも、今まで誰一人も欠けることなく生き抜いてしまっていることが憎たらしい。    そんな恭介だったが、ユキの恋人である希美は可愛がっていた。  可愛がっていると言っても、あくまでも仕事の後輩だ。ただ甘やかすだけでは彼の為にはならないし、彼の素直さが悪意ある誰かによって利用するようなことになってはいけないと、時には厳しく指導することもある。先輩として、上司として、そのあたりはきっちりしよう、と決めていた。希美を、ライやユキのようなクソヤロウどもに負けない、強く逞しい男に育てねばという決意だ。    しかし、希望に関しては話が別だった。  希望は希美の兄弟のような存在なので、希美と同じくらい可愛い。可愛いし、彼を律するのも教育するのも自分の役目ではなく、普段一緒にいる仕事関係者の誰かがやればいいと思っている。だから自分はただひたすら甘やかそうと決めていた。  時々会うだけの自分は可愛がるだけでいいはずだ。指導するのは俺の役目じゃない。俺、こいつの先輩じゃないし、とそう思っている。  時折、「結局、誰がこいつのこと叱るんだっけ?」と思わないこともないが、やっぱり自分の管轄じゃないのでどうでもいいことだ。この話はおしまい。    そういうわけで、今日も今日とて恭介は、希望と食事の約束をしていた。  受験が控えていると聞いていたが、希望からの誘いを無下にするのも気が引ける。たまにはあいつも息抜きが必要なはずだ。見た目と違って、案外真面目なやつだから。  万が一、遊びすぎていたとしても、大丈夫だろう。希望は愛されているから、きちんと叱られるはずだ。俺ではない誰かに。だから俺は叱らなくていい。  そう考えて、恭介はあっさり誘いに乗ったのだ。    仕事の癖で早めに到着して待っていると、見覚えのある少年が、見慣れぬ姿で現れた。 「……希望?」  これほどまで煌く金色の瞳と派手な顔立ちのハニーフェイスはそうそういないだろうと思いながらも、恭介は念の為問いかけた。  いつもなら髪を元気に跳ねたままの形でワックスで固めているのに、今はしんなり、と項垂れてしまっている。服装も挑発的でワイルドセクシーな派手なものではなく、ワイシャツの上に淡いクリーム色のセーターを着ていた。  少し袖が長いのが気になるが、希望なので許す。希望の小さな顔にはやや大きい黒縁眼鏡の存在意義も気になったが、似合っているので許そう。ただ赤のチェックのズボンだけは、色はこの際どうでもいいが、足の長さに少しムカついた。    気になる点はいくつかあったが、希望の表情は暗く、情けなく眉が垂れて、瞳はいつもより潤んでいる。そっちの方が気がかりだった。 「どうした?」 「……きょうすけさぁん……!」  希望が震えた声と潤んだ瞳で泣きつく。若干あざとさが気になるが、可愛いものは可愛い。  恭介はその可愛さに免じて足の長さも許してやろう、と思った。

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