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第15話
恭介に促されて席につくと、希望は少しずつ、ポソポソと話し始めた。
下心と出来心で、ライに家庭教師をお願いしてしまったこと。お仕置きとご褒美が恥ずかしくて大変だったこと。それでもなんとか頑張っていたこと。
しかし、先日、また自分はやってしまった。
とある日の、タートルネックとジャケット姿のライが新鮮で、とても家庭教師っぽくて、恋人の新たな一面に、希望はメロメロになってしまったのだ。
本当はもう、家庭教師を断ろうと思っていたのにそんなことをすっかり忘れてしまうほど、ライはとってもかっこよかった。
「ちなみに、その時のライさんがこれです……」
「あ、そう」
希望がライの写真を見せるが、恭介は目も向けなかった。
希望は続けた。
このライさん、眼鏡をかけたらもうきっと、すんごいかっこいいに違いないと思って、希望は実行してしまった。
そのままのライさんも魅力的だけど、眼鏡をかけたらもっと家庭教師っぽいに違いない。勉強するんだったら、雰囲気も大事だよね、と希望はライに眼鏡を差し出した。ライはかけてくれた。
「かけたのかよ。なんなんだよあいつ」
恭介が舌打ちする。
「ちなみにこれがその時のライさん」
「結構です」
希望は続けた。
ライが眼鏡をかけたらもう、すごかった。希望は興奮のあまり、写真をいっぱい撮った。いっぱい撮って楽しかった。
その下心と好奇心が、ライの逆鱗に触れてしまったのだ。地雷を踏み抜いたとも言える。
ライは静かに激怒していた。希望が気付いた時にはもう遅かった。
優しく柔らかい笑顔がとんでもなく恐ろしかった。
そんなライから出された条件は。
合格すれば、進学だ。なんてことはない。当然だ。努力が実を結んでよかった、ハッピーエンド。
でも不合格だったら?
次の一年後の試験まで、希望はライに飼われるのだ。
『今度は一年かけて、教えてやるから。なにも心配しなくていい。お前はただ、可愛がられていればいいよ。悪くないだろ? ……で、どっちがいい?』
その日から、全部変わってしまった。
ライがべらぼうに甘くて、優しい。ご褒美も、お仕置きもなくなって、ただただ、優しく丁寧に勉強を教えてくれる。
これを望んでいたはずなのに、希望は怖くて怖くて仕方なかった。
怖くて思わず、「もうお仕置きしないの?」と聞いてしまった。ライは少し目を丸くした後、優しく目を細めて微笑んだ。
「こんなに頑張ってるお前にそんなことするわけないだろ? 鬼じゃあるまいし」
あ、鬼じゃないんだ、でもどっちかというと悪魔かな。今までのは何だったんだ? などと、希望はいろいろ考えた。けれど、ライがじいっと希望を見つめていることに気付いて慌てて考えるのをやめる。また心を読まれる気がしたのだ。ライの全てを見透かすような、観察するような視線が怖い。
「な、なに……?」
「……こんなに頑張ってるお前にそんなことするわけないだろ?」
あれ? デジャブ? と希望は震えた。
ライが同じ言葉を同じ表情で繰り返して微笑む。
「悪魔じゃあるまいし」
ひぃっわざわざ言い直した! 心読んだの!?
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