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第17話
もうひとつある。
首輪の件から、数日後のことだった。
その日、希望はいつものようにライの家にいた。
「あっ!」
気分転換に掃除でもしようと、手始めにテーブルを拭き始めた時だった。うっかりテーブルの上にあった封筒と落としてしまったのだ。
封をしていなかった封筒が落ちて、中身が床に散らばり、綺麗に滑って広がってしまう。
大切な書類だったら大変だ、と希望は慌てて拾い集めた。
「……え?」
数枚拾って、希望は固まった。少し厚手の紙には鎖や檻の写真が並んでいる。猛獣や大型犬用らしきものから、人間のモデルも写っている官能的な写真まで載っていた。檻や鎖を紹介する、カタログのようだ。他にも数枚散らばっているのも、同じだ。
何に使うのか、誰に使うのか。心当たりがありすぎて、希望の背筋は一気に冷たくなる。まだ秋なのに、冬の女神が抱き付いたかのようだ。
「ひっ……」
見なかったことにしよう! と希望は慌てて散らばった資料やカタログを集めた。元の状態に戻そうとするが、手が震えてうまく封筒に入らない。
その直後、背後に気配を感じて、よせばいいのに振り向いてしまった。
予想通り、背後にはライが立っていて、希望は思わず悲鳴をあげた。ぺたんと尻をついて、ライを見上げたまま震えている。
ライはただ静かに希望を見下ろしていた。希望が驚いた拍子に再び床に散らばしてしまった資料を一瞥する。
「……興味あんの?」
「あっ……やっ……!」
声も震えてうまく喋れず、希望は震えながら懸命に首を横に振った。
「俺も興味あって取り寄せてみたけど、けっこうでかくて邪魔そうなんだよなー」
ライはしゃがみこんで、希望と目線を合わせながら話し始める。希望の答えはなかったことにされたようだ。家具でも選ぶような気軽さで喋るライが、希望には恐ろしくてたまらない。
「こっちは猛獣用の鎖だけど、動きにくそうだろ? サイズも合わないし。檻ももっと鳥籠みたいなのでもいいのに。こっちのベッドの下が檻になってるのもいいかと思ったけど、一緒に寝るから意味ないし。なあ?」
希望は一つも答えられずに、ふるふると震えてライを見つめていた。
腰を抜かしたまま動けない希望の代わりに、ライは資料を全て拾って、そのままゴミ箱へ無造作に押し込んだ。
ライが振り向いて、ゆっくり歩いてくる。再び希望の前にしゃがみこむと、希望はびくっと震えた。
「でも、あんなのなくてもいいだろ。お前なら」
ライは大きな手で、優しく希望の頭を撫でる。目を細めて、笑みを浮かべ、希望の顔を覗き込むように、少し顔を傾けた。
「お前は逃げ出したり、暴れたりしないで、イイコにできるよなぁ?」
「ひぃ……!」
この人、俺を完全室内飼いにする気だ!!
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