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第22話

「次に会う時には模試の結果出てる頃だな」  希望がびくり、とわずかに身体を震わせて、顔を上げる。    希望はライとの〝勉強会〟を終えた。  秋の模試が三日後に控えている中で、ライと会うのは今日が最後だ。次に会う時は模試の結果が出ている。  ライを見上げた希望の瞳は不安そうに揺れていたが、慰めるような素振りはなく、ライは笑った。 「たのしみだなぁ」    ***    シャワーを浴びて、希望はライの寝室のベッドに座っていた。  ライが出てくるのを、ちょこん、と座って待っている間、ぐるぐるといろんな考えが頭を巡った。    三日後の模試で合格ラインまで到達できるかどうかが希望は不安だった。  ライの用意してくれた課題や試験ではギリギリのところだ。もうひと頑張りで合格ラインを越えそうだったが、なかなか最後の点数が上がりきらないまま模試を迎えることになってしまった。    希望の第一志望は海外の音楽や舞台の歴史を扱う学科だった。鑑賞や留学もあって、希望はどうしても行きたかった。  場合によっては、一年浪人することも視野に入れていた。  けれど今はその道を積極的に進んでいくことはできない。   「どうした?」  希望を照らしていた淡い照明の光が遮られて、希望は顔をあげた。大きな影を作り出していたライは、影よりも暗く笑っている。  希望が黙って俯くと、ライは隣に腰を下ろした。僅かに触れた体が熱くて、少しほっとしてしまう。  ライが怖い生き物だと分かっているのに、何故安心してしまうんだろう、と希望は不思議でしょうがない。俺の恋心はすぐにバグを発生させちゃうなぁ、と呆れた。 「試験のこと?」 「う、うん……」 「まだ模擬試験だろ? 大丈夫だよ」 「うん……」 「それとも、また次まで頑張る?」  ぎくり、と希望の肩が揺れた。  耳元で囁くライの声が嬉々として弾んだことに背筋が震える。慌てて顔を上げ、ライを見つめた。  ライは深く暗い笑みを浮かべて、目を細めている。 「たかが一年だろ?」  深い緑の瞳の奥で、暗い光が誘い込むように揺らめく。腰を舐めるように撫でまわし、身体を摺り寄せれば、体温が混じり合うかのようだ。 「今度は毎日、じっくり、教えてやるからさ」 「……あっ……んぅ……!」  背筋をゆっくりと這い上がってくる感覚に流されそうな希望を、ライの甘く低い声が追い詰めていく。  じっくりとした愛撫にくらり、と希望の心と身体が傾くと、優しく押し倒されてしまった。  大きな身体が覆い被さり影に包まれる。それだけで、まるで地下牢の扉が閉ざされたように身体が重くなった。  裾から入り込んで腹から胸へと掌が撫でても、希望は抵抗できずに僅かに身体を震わせてライを見つめるしかない。 「仕事もこのまま休んじゃえば?」 「んっ、んぅ……っ」 「ここにいればいつでも可愛がってやれる。帰らなくていいよ」 「あっ、だ、だめっ……」 「もういっそのこと、このまま、ずっと二人っきりで過ごしちゃおうか」  熱い掌のじっくりとした愛撫と、耳から頭を犯す甘く低い声に、酩酊したように頭が揺れる。身も心もどろどろに甘やかしながら耳元で悪魔の囁きを繰り返されて、希望はもう蕩けてしまいたかった。  けれど、なんとか頭と心を奮い立たせて耐えていた。    た、助けて受験の神様! 俺にご加護を!    心のロザリオを握りしめて、必死に祈る。  けれど、ライがTシャツを脱ぎ捨てたのを見て、希望はゾッとした。  抵抗の意志をどろどろに融かされた希望は逃げられない。これからのことを想像して怖くて震える。    ああ、また、きちゃう……!    希望にとって、これからの時間は試練だった。怖くて、今すぐにでも逃げ出したい。  恭介に語った怖い話よりも、希望はこれからの時間が一番恐ろしかった。    ***  熱くて固い欲が肉壁を擦りあげていく。  ゆっくりとした動きだと刺激をひとつひとつ丁寧に拾い上げてしまって、甘い痺れがすでに全身に毒のように巡っていた。 「やっ……はぁっ……!」  ベッドに押し付ける手は大きく強いが、痛みはない。なんとか逃げ出せそうな気がするほど、やんわりと優しい。  けれど、逃れようと身を捩っても、覆い被さる身体は逞しくて微動だにしなかった。二の腕あたりと抑え込まれているだけなので、肘から下は自由だ。けれど、じっくりと中を犯す刺激が続いて、ライの腕にしがみ付くことしかできない。 「……っ……! ん、んんっ……!」  ライの熱を受け入れる蕾は限界まで押し広げられて、いっぱいだった。隙間なく、ぐっぷりと差し込まれたものが動けば、満遍なく肉壁を擦り、刺激する。ライの熱も脈動も、固さも大きさも、形も、締め付ける自分の淫らな反応さえも意識せずにはいられなかった。  そうやって少しずつ積み重ねられ、溜りに溜まった快感膨れ上がって爆発してしまいそうだ。  もう少しで一番弱いところ、最奥に届く。このもどかしさから解放される、と身体が期待で震える。締め付け、吸い上げて、奥へ奥へと飲み込もうとしていた。  けれど、希望は知っている。    ライは希望の最奥を突くことなく、またゆっくりと引き抜いていってしまった。 「あっ、ぁあ……! やぁっ……!」  いかないでいかないで、と希望が言えない代わりに、下の口がライをきゅうっと締めつける。  けれどそれで引き留めることなどできるはずもなく、またじっくりと中を刺激しながら奥から遠ざかっていく。 「あぁっ……! な、なんでぇ……?」 「んー?」  全身を震わせながら、希望はライを縋るように見つめる。  溢れそうなのに解放できない状態がずっと続いていて、希望はライの腕を必死に掴んだ。 「ぜ、ぜんぶ、ぜんぶいれてっ……もっと、奥まできて……!」 「えー?」  ライは薄ら笑みを浮かべて、目を細める。 「だって、前に『気持ちよすぎて勉強したことも飛んじゃいそう』って言ってなかった?」 「あっ……で、でも、でも……もうっ……!」 「せっかく覚えたこと、忘れたら困るだろ? もうすぐ模試なのに」 「あっ……あ、ぁあ……!」  ふるふる、と震えて瞳を潤ませる希望を、ライは優しく見つめ、宥めるように頬と頬を擦り寄せる。  ライが近付いて、身体が触れ合った刺激だけで、希望はびくびくと震えてしまった。 「お前が飛んじゃわないように、このままずっと、ゆっくーり、犯すから、大丈夫」 「……やっ、いやぁっ……!」  ライの声に僅かに滲む、楽しげな加虐心に、希望はぞっとした。  もどかしい快楽で溢れそうなまま、この後何時間も犯されることを想像して、必死にライに訴える。 「ライさん、やだっ、ぜんぶ、ぜんぶほしっ……! 奥まで……おねがいっ、いっぱい、してぇ……っ!」  自由にならない腕でライの腕を必死に掴み、足を腰に回す。柔らかい太腿でライの腰を挟んで、誘うように擦り寄せる。懸命に頭を上げてライに近付いて、頬に、首に、口づけをして吸いついた。  希望の懇願を、薄ら笑いを浮かべてライは受け入れている。 「どうしよっかなー。お前はそれでいいの?」 「んんっ……! いいからぁ……! ぜんぶ、ほしくてっ……もう……! おねがい、いっぱい、奥まで入れてぇ……!」  とろんと瞳を潤ませて、震える唇からは甘えた声を出して強請る。  同じように、ライを受け入れたままの蕾は、中がうねり、きゅうきゅうと締め付けてライを離そうとはしなかった。 「ライさんっ、ライさんっ……! あっ……アァッ!」  ライが再び動き出して、希望の求める奥へと熱を押し込んでいく。期待で身体は震え、はやくはやくと飲み込もうとする。落ち着けるようにライが頭を撫でて、キスをしてくれるのでさえ快感として拾い上げて甘く鳴く。  淫らな自分の反応を恥じる余裕など、希望にはもうなかった。    ライはゆっくりと進みながら時々少し引いて、希望が縋り付くのを楽しみ、引いた以上に奥へと突き進んで希望を悦ばせた。  一番奥の、少し手前で止まってライが希望をじっと見つめる。  もう押さえられていないのに、希望は大人しい。それどころかライの背に腕を回してしがみついている。 「…っ? ら、いさ、……っ?」  甘く吐息を漏らして、ライを見つめ返し、首を傾げる。瞳は情欲で揺れ、とろんと蜂蜜のように艶やかに蕩けていた。  求めてやまない快感を与えられるのだと、信じて疑わない眼差しに、ライの腹の奥がズグリ、と疼く。  踏み躙ってやりたい衝動を抑え込んで、ゆっくりと、希望の最奥を抉る。 「アァッ! ……あっ! あっ、あ、……あぁっ……っ!」  ずぐり、と奥までいっぱいになる。希望の身体がびくっ、と震え、続けて小さく痙攣していた。ライにしがみついて、びくびくっ、と小さく何度も震えている。 「あ……っ、あ、はぁっ……!」 「イっちゃった?」 「え……あっ、ぁうぅ……っ?」  希望は自分がどうなってしまったのかわからない。射精感が緩やかに続いていて、身体の小さな痙攣に合わせて、中もひくひくと震えていた。 「イってるよ」  ほら、とライが希望の中心に触れる。そこは通常のように白濁の熱を吐き出さず、とろとろと零して、快楽に泣いていた。 「あっ……おれ、イって……? ……ァアッ!」  ライが再び動き出して、まだ痙攣を繰り返す肉壁をずるり、と擦る。希望の身体がびくびくと震えて、こぷり、と白濁が溢れた。 「あぁっ……! あーっ! ぁあ、んっ……! あっ、あぁっ! ああっ……っ!」  自分が達していることを教えられてしまったせいで、全身を快感が巡ることを自覚する。ライが動く度に気をやって、小さく震え、嬌声は止められない。  ずっと気持ちいい。何も考えられない。 「中ずっとびくびくしてるけど、気持ちいいの?」 「あっあぁ、ぁんっ! きもちいっ、あっ、んっ! きもちい、いッ……!」  ライが低く喉を鳴らして笑う。それが耳に響いて、背筋がぞくぞくと震えた。  脳が焼き切れる激しさはない代わりに、内側からどろどろにとかされていく。  自分がどうなっているのか、何を口走っているのかもわからない。  怖い。    希望はライに飼われるのが嫌なのではなかった。  ただ、一年もこんな風にでろでろに甘やかされて愛玩されたら、絶対に戻れなくなる。今の自分ではいられない。    そんな不安さえも快楽にとかされてしまうこの時間が、希望はとても恐ろしかった。

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