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第23話
今度こそ、絶対に、断るぞ!!
その日の希望はいつもと違っていた。
ずっとライの誘惑と魅力に屈し続けていたが、今度こそは負けないぞ、と気合いを入れている。
今までとは違って、希望にはもう後がないのだ。
最近の情事ではどろどろにとかされて、快楽のことしか考えられなかった。
ライに初めてを奪われてからというもの、嵐のように荒く、落雷のように身を焦がす激しい快楽を与えられ続けてきた。それを受け入れるような身体にされていた。
だから、ゆっくりと愛撫と挿入を繰り返されて、丹念に丁寧に追い詰められることには慣れていない。
記憶が飛ぶほど激しくない。最中は何も考えられないだけで、事後には自分がどんなに恥ずかしい言葉で、どれだけはしたなくライを求めていたか覚えている。……ああ! 穴を掘って埋まりたい!
だから、次に会うときはえっちしない! 絶対断んなきゃ!
あんな責められ方じゃ耐えらんない!
このままだと変なこと口走って、尊厳奪われちゃう!!
今までは無事だったが、例えば最中にライが、「受験なんてやめて俺に飼われちゃう?」等と言えば、希望は受け入れるような答えを返すだろう。
そして、ライのことだから証拠を取っておくに違いない。下手したら、朝起きたらもうすでに、逃げられない状況になっているかもしれない。
希望はそれが恐ろしかった。
だから希望は、自分の人権と尊厳を守るため、ライと戦うことを決めたのだ。
***
……あ、あれ?
ベッドに横になって、布団にすっぽりと入り、希望は首を傾げた。
たくさん勉強して頭を使い、ゆっくりとお風呂に浸かって暖まった身体を、ふかふかのベッドで癒している。
ライの寝室の大きなベッドの上、隣ではライが背を向けて、横になっていた。
希望は暗い天井を見つめて、目をぱちぱちと瞬きする。ちらちらとライを見て、もぞもぞと落ち着きなく身動ぎを繰り返した。
「どうした?」
背を向けていたライが振り向いて、希望はビクッと震える。
希望が目を丸くして見つめていると、ライは希望の側に寄り添った。肘をついて、頬杖して、希望を見下ろしている。
「なに? したいの?」
「っ!?」
ライが柔らかく笑みを浮かべて、布団の上から希望の胸を撫でた。希望はぎくりと震えて、身体を強張らせる。
ライは胸に手を這わせて、希望の反応を楽しそうに見つめている。けれど、胸から手を離して、希望の頭を優しく撫でた。
「そろそろ試験まで二ヶ月だろ? だから、終わるまでセックス禁止」
「えっ」
「したかった? ごめんな」
「あっ、いや……」
「それとも、今日はしちゃう? 明日からでもいいよ」
「! しない! おやすみなさいっ!」
ばふっ、と布団を被って逃げる。頭まで被って、ライに背を向け、身を守るようにして丸くなった。
布団越しに、ライが低く笑う声がする。
少しして、ライが離れる気配を感じ、希望は少しほっとした。
「ああ、そうだ」
ほっとして少し顔を覗かせると、背を向けているとばかり思っていたライが希望を見ていた。驚いて、心臓がぎゅうっと縮む。
「一人ですんのはいいよ。集中できなくなったら意味ないから、適度に抜いておけよ。できる?」
「え、……あ、んん……?」
しっかりと答えずに、希望はもにょもにょ、と口ごもる。
そういえばライさんとえっちするようになってから一人でしたことなんてほとんどない。すぐヤられちゃうし、そんな暇なかった。
会えない日が長く続くこともよくあるけど、寂しさを埋めようとおもちゃを(ライさんのカード使って)ネットで買っても結局怖くて使えなかった。
そのおもちゃも、お仕置きの時にぶちこまれたけど、そんなに良くなかった。
だから、一人でできるか、なんて。
改めて考えるとわからなくなった。
「う、うん……。だいじょうぶ……」
考えた末に、希望は小さく頷いた。
希望が目を泳がせるのを、ライは笑みを浮かべて眺めている。希望の不安を察したのだろう、笑みを深くして、耳元に唇を近づけた。反対の耳を擽るように撫で、囁く。
「一人でできなかったら手伝ってやるから、そんなに心配しなくてもいいよ」
ぴゃあっ! えっちだ!
ライが希望に背を向けて横になった後も、希望はドキドキしてしばらく眠れなかった。
***
冷静になってから、希望はぷんぷん怒った。
たった二ヶ月の禁欲くらい、なんだというのだ。手伝ってやる、だなんて、見くびらないでほしい。
自分で処理するのだって、もともと週に一回か二回くらいしかしてなかったのだ。
いつもいつも、ライさんがあんなことやこんなことをして、えっちな気分にさせてくるのが悪いのだ。恥ずかしいことをして、恥ずかしいことを言ってしまうのも、ライさんのせいだ。
それなのに、まるでえっちなこと我慢できない子みたいに扱いやがって! 許せん!
俺が好きなのはえっちじゃなくて、ライさんなのに! そのあたりきちんとしておきたい!
だから二ヶ月くらい平気だ、と希望は思っていた。
一〇日を越える頃までは。
……あれぇ……??
勉強を切り上げようとしたところで、腹の下の奥で燻る疼きに気付いて、希望は混乱した。
気付いてしまえば、沸々と熱いものが込み上げてくる。それが身体の奥で渦巻いている。
どうすればいいかわかっていた。
戸惑いながらも手を伸ばす。まだ反応していないそこに触れるのを躊躇していると、ライの言葉が頭を過った。
……『一人でするのはいい』って、ライさん言ってた……。
だから、ちょっとだけ……。
勉強も終わったし、もう、寝るだけだから……。
希望は裾の長いTシャツが汚れないように、捲って口に咥えた。ズボンを少しずらして、ふるりと出てきたものをそっと手で包み込む。ゆっくりと上下に擦ると、少しずつ固さを増していった。
「んっ……んんっ…んぅっ……」
腹の奥で疼いていた熱が、刺激を求めて全身を巡る。ふぅ、ふぅ、と荒く吐息が溢れ、身体が震えた。
ゆっくり柔らかく包んでいた手は、じわじわと動きが早まる。とろとろと流れる先走りを塗り付け、敏感なところを擦る。
「ん、んっ! ンンッ……! ――んぅっ!!」
びくんっと身体を震わせ、前に傾く。足の指にもきゅうっと力が入る。手の平に生暖かい体液が吐き出された感覚がじんわりと広がった。
「……ふっ…あっ……、はぁっ……」
白濁をぼんやりと眺める。
達した。これで終わり。欲を吐き出せば楽になる。
そう思っていたのに、希望の熱はまだぐずぐずと燻っていた。
足りない、と身体が強い刺激を求めている。
それがどこかわかってしまって、希望の顔が熱くなった。
どうしよ……お尻がむずむずする……。
けれど、『ご褒美』で、自分で慣らしたけどそんなにうまくできなかった。それだけでは、気持ちよく感じなかった。
それよりライさんのを口に頬張ってた方が……。
希望ははっとして唇に触れる。
ライに捩じ込まれた熱の形、熱さ、味、大きさ、口内を擦りあげる凶器の感触がぶわりと甦る。
思い出したら、止まらなかった。
ぞくぞくっと背筋に快感が這う。それだけで気持ちよくなってきてしまって、腰が震える。希望ははぁっ、と甘く吐息を洩らした。
希望はベッドにごろんと寝転がった。横になって、ズボンは脱ぎ捨てて、手にはローションを垂らす。
うつ伏せで、お尻だけ触れやすいように突き上げる。
恐る恐る、双丘の奥の蕾に触れた。
「ひゃぁっ!」
触れた途端、ローションの冷たさにひくんっと震えてしまった。
今までそんなことなかった。ライの手はいつも熱いから、知らなかった。
手の熱で少しずつ温めて、もう一度触れる。
今度はひくひく、と受け入れるように反応してしまった。貪欲に求める身体が恥ずかしい。
けれど、手は止まらなかった。
ライさん。
ライさんの指、どうやって動いてたっけ。
記憶を探りながら、指を動かす。
周囲をなぞって、ゆっくり撫でるように慣らす。ローションが入り込んだところで、くぷり、と指を沈める。肉壁をすりすり、と撫でながら、奥へと沈めていく。
思い出すだけで、全身を快感が這い上がった。
「んっ……んんっ……!」
指を増やして出し入れを繰り返す。くちゅくちゅ、ちゅぷちゅぷ、と濡れた音が響いて、自分が快楽を求めて必死に指を動かしているのが嫌でもよくわかる。
記憶のライの指の動きを思い起こしながら、内部をなぞった。中もひくついて、きゅうきゅうと指を締め付ける。
懸命に掻き乱す指が、いいところを触れて、ビクッと身体が小さく震えた。
「――っぁあっ!?」
ベッドに押し付けていた胸の突起が強く擦れてしまった。快感がビリッと全身を駆け抜ける。
達するほどまでいかなかったが、必死の気持ちいいところを探ってかき集めていた希望にとっては、強すぎる刺激だった。横向きに倒れて、身体は余韻でびくびく、と小さく痙攣を繰り返している。
ゆっくりと仰向けになり、シャツを捲り上げた。
晒された胸では、熟れた色の中心はピンッと主張して、色の薄い周囲はぷっくりと膨れ、刺激を求めている。
……胸。
胸も、触ってくれる。
ライが弄ぶ時の手つきを思い出して、最初はすりすり、と指先で先端を撫でる。
すぐに、指を咥えこんだままの肉壁が、いやらしくビクビク震えた。こんなに簡単に反応してしまっていたのかと気付かされる。
それでも、止められず、優しくつまんで、くりくりと弄ぶ。
「アァッ! あっ! ぁあっ、んぅ!」
もっと、もっと、と胸の突起の先端を痛いくらいに擦り上げて、ぎゅうっと摘まんで、それでも気持ちいい。中も激しく掻き乱して、奥がぐちゅぐちゅになるまでねじ込んでいく。
「あっ、ぁぁっ……、ンッ、アッ、アァッ!」
切なく眉を寄せて、目尻に涙が溜まる。
どれ程激しく、強く、必死に探っても、足りなかった。一度白濁を吐き出したそこは、放っておかれたまま、とろとろと涙が流している。ぴくんっと震える度に、とぷん、と透明な欲が切なく零れる。
指を増やしても、奥まで届かない。
「あぁ……っ、あっ、ぁぁっ……!」
――その後、何度達しても満たされず、もどかしさを抱えたまま、希望は眠りにつかなければならなかった。
耐えられないほどではない。けれど腹の奥の疼きは自覚せずにはいられない。
ぎゅうっと丸まって、一人で耐える。
ひとりでできなかったなんて、言えない。
満たされなくて、もどかしくてしょうがないけど、それを伝えるのはあまりにも恥ずかしい。
そんなこと言ったら、今度こそ、ぜんぶ奪われてしまう。
だけど、自分の指と、ライの長くてごつごつと太い指とは違う。
すべてを暴いてしまう指先。熱い掌。
何より、どうやっても、一番奥の、一番いいとこに届かない。
いつも深く抉る、熱くて固くて大きいもの。
おなかいっぱい、満たしてくれるもの。
「……はぁ……っ」
火照りを残す身体を抱き締めて、吐息を溢す。
希望は、きゅうっと切なく疼く、下腹部を撫でた。
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