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episode2. 魅惑の彼(3)
彼はどんな顔をしてこの会話に参加しているというのだろう。
急激にバクバクとし出した心臓音に遼二は酷く戸惑いながらも、事の成り行きが気になって気になって仕方なかった。
紫月はどうやら男らの円陣の中心にいるようだが、ここからでは彼らの背中越しで表情までは窺えない。
心拍数は速くなるばかりだ。
しばし荷解きを忘れて、ミーティングの様子ばかりに気を取られていた。
◇ ◇ ◇
「よう遼二! セッティングは済んだか? もうちょいで撮影入るから今の内に休憩取っとけ」
打ち合わせを終えたらしい氷川を目にするなり、待ち切れずといった調子で遼二はその側へと駆け寄った。
「あの……氷川さん、今日の撮影って……」
言いづらそうに、おずおずと訊く。そんな遼二の表情からは、いったい何の撮影なのかと怪訝そうにしているのがすぐに分かる。氷川はまたしてもおかしそうにクスッと笑うと、まるで種明かしせんとばかりに得意げに口元をゆるめて見せた。
「ああ、それね。言っとかなきゃって思ってたよ。実はな、官能写真集の撮影なのよ」
「はぁっ!? か、官能っ!?」
「でっけー声出すなバカッ! だから昨日言っといたろ? 今日の仕事は今までとはちょっと違うぞって」
そんなことは分かっている。予想もしない返答にとっさに大声が上がってしまっただけだ。それに官能云々といったって、メインモデルは先程のあの紫月という男ではないのか?
まさか今から別の女性モデルでもやって来るというわけか、しばし頭が混乱しているといった表情で言葉を失っている遼二の様子を面白がるように氷川はニヤリと笑って見せた。
「もともとはゲイ雑誌の特集企画から始まったんだがな。さっき紹介した紫月が結構な人気なんで単独写真集を出すことになったんだ。確か今回で三冊目だったっけか……? ま、今じゃ案外女性のファンも増えてきてるみてえだけどな? 見ての通りの男前だが、意外に性質はフレンドリーだから仕事はやりやすい。その代わりヘンなとこにこだわりがあるっつーか、紫月は気に入ったモデルとしか絶対に組まねえし、カメラマンも自分で選ぶんだ」
そう説明されて遼二は思わず目を丸くした。
ゲイ雑誌で人気のモデル――確かにギョッとするほど綺麗な男だったが、妙に含みを持ったような独特の威圧感が何とも心地悪いと感じたのも確かだ。
思わず心の中を覗き見られるような、或いは鷲掴みにされるような、とにかくこれまでに体験したことのないような奇妙な感情を掻き立てられるような気がするのだ。
たった今、出会ったばかりの男のことが何故にこんなにも気に掛かるというのだろう。彼についての話題だというだけで頬が染まるような気さえする。
遼二はそんな自分の気持ちの揺れが信じられずに、また悟られたくもなくて、さほど興味のなさそうにして平静を取り繕おうと必死になっていた。
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