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episode3. 渦(3)

 夜道を照らす街灯の下を歩きながらアパートメントへと向かう足取りは重い。早い話がたったひと言、師匠の氷川に『あのモデルの写真集を見てみたい』と言ってしまえば済むことなのは重々承知だ。氷川なら自分が撮った写真集を持っていないわけがないからだ。だがどうしてもそれを言い出す勇気がなかった。例え『勉強の為』という大義名分があったにせよ、だ。  見てくれによらず、案外晩熟でウブな遼二には、飄々とその”大義名分”を掲げるには荷が重過ぎるというのは百も承知だったわけだ。  後ろめたい思いが先立って、絶対によからぬ方向に勘繰られるだろうことは目に見えている。  とにかく自分で何とかするしかない。ほぼ半日以上を費やし足を棒にして歩き回ったせいで、ダルさが酷く堪えて、しんどいったらこの上ない。何だか子供の頃の遠足の帰り道を思い出してしまう。たかだか一冊の写真集の為に何てザマだ。実際、どうかしてしまったんじゃないかと思う程に、頭の中は混乱してもいた。 ◇    ◇    ◇  部屋に帰ってすぐさまシャワーを浴び、冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶の入ったペットボトルを取り出して、一気にそれを飲み干した。 「やっぱビールにすりゃよかったかな……?」  そんなどうでもいいようなことが思い浮かんでは、ああ疲れてるんだなと苦笑いがとめられない。ふと、視界に飛び込んできたモバイルタイプのパソコンに、瞬時にひらめきが過ぎって、急いでそれを立ち上げた。  そうだ、ネット通販って手があったじゃねえか!  そう思うと、何でこんな単純なことに気が付かなかったんだと今日一日の労力を振り返っては、ますます苦笑、つまりはそれ程までに余裕がなかったということか。 「俺ってなんちゅーアホ! つか、バカ? わざわざ本屋で対面購入しなくったって、こんなイイ方法があったじゃねえかよ……」  自分自身のバカさ加減にホトホト呆れながらも、先ずは使い慣れた大手通販サイトのページを開く。 「アダルトカテゴリ……だろうなぁ、多分……」  ブツブツと独り言をつぶやき、わざと遠回りをするように検索窓を避けて、本と書籍の欄から写真集へと進み、マウスをクリックするその度に指先にじんわりと汗が浮かぶようで心拍数が増加する。一之宮紫月――と、例のモデルの名前の文字列を打つ瞬間がマックス状態だった。  検索待機中のマークが画面に浮かび、すぐさま結果ページへと切り替わる。ほんの短いこの一瞬が酷く長く思える程に、心臓がバクバクと高鳴り出すのが何ともムズ痒かった。 ――あった!

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