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episode3. 渦(6)

「徹夜だったんスか?」 「あー、まあな。昨日まで地方だったからさぁ。週末までに一本上げねーってーと、締切りに間に合わんのよ」 「そーすか。お疲れさまッス」  甘党の彼の為に砂糖とミルクを勧めながら、ペコリと頭を下げてみせた。そんな遼二に中津川はニコッと微笑むと、 「で、どうよ調子は? だいぶ仕事にも慣れてきたか?」  相変わらずの懐っこさで訊く。その、決して作り物ではない爽やかな笑顔に不思議と気持ちが和むように思えて、遼二はつい心のままをこぼしてしまった。 「まずまずってトコです……。仕事は楽しいし、氷川さんに使ってもらえるってだけで文句なんかないんスけど……。俺、足引っ張ってばっかで」 「はあ? そーなの?」 「ええ、まあ……。こないだなんかすっげえ大失敗しちゃって……撮影中断させちまったんです。氷川さんはもちろん、モデルさんたちにも迷惑かけちまって。俺、経験少ねえっつーか、あんなの初めてだったから焦っちまって大ドジ踏んじまった」 「あんなの――?」  ズズーッとコーヒーを飲み干しながら中津川は不思議そうに首を傾げ、だが次の瞬間、突如何かにひらめいたとでもいうような大声を上げてみせた。 「あんなのって、もしかしてアレかっ!? 例のゲイアダルトのヤツかよ!? 氷川の奴、マジでお前を連れてったのか!?」 「え? ええ……けど、あの、なんで……」 ――何故そのことをを知ってるんですか、というような顔つきで遼二は彼を見やった。 「ああ、知ってる知ってる! 前に氷川がそう言ってたからよ。官能写真集の撮影にお前を連れてくって。俺はよせって言ったんだがな? 免疫のねえ新人なんぞをあんなトコに連れてきゃ、フツーに衝撃受けるでしょうが! けど条件に合う助手はウチの事務所内じゃお前しかいねえって氷川がよ、そう抜かすから。そっか、マジで連れてかれたのか、お前」  少々呆れたように、だが心底『お疲れさん』とでもいうような調子で、マジマジとそんなことを言われて、どうにも返答のしようがなく、ペコリと軽く頭だけを下げる。  そんなことよりも条件に合う助手が自分だけ――とはどういうことなのだろう?  中津川の言った意味がどうにも気になって仕方ない。そんな様子を察するかのように、彼は自分の方から先を続けた。 「お前の連れてかれた現場ってアレだろ? 何ってったっけ? ナントカ紫月とかいうゲイモデルの……」 「あ、はい。一之宮紫月さんです」 「そうそう、一之宮紫月! そいつってさ、パッと見、感じ悪りィ野郎じゃなかった? 何つーか、高飛車ってか無愛想ってーか!」 「はぁ、まあ……」

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