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episode3. 渦(7)

「そいつよ、撮影ン時にてめえと組むモデルもカメラマンも全部てめえで決めるって有名なのよ! 要はあれだよ、てめえで気に入った奴としか仕事しねえってことなんだろうが……まあとにかくご高慢な野郎でな?」 「そーみたいッスね。氷川さんもそんなこと言ってました」 「だろ? 氷川のことは大のお気に入りらしいからな、よく指名が来るわけなのよ。俺もあのモデルの初写真集の撮影ン時、手伝いで入ったんだけど、実際ビビったもんなー! ゲイ写真ってだけでもアレなのによ、目の前で本番ギリギリかそれ以上みてえな演技かまされた時にゃ、マジで腰引けそうんなったもんだぜ」  懐かしいなあとばかりに中津川は火を点けたばかりの煙草の煙をうまそうに吸い込んでは、ふぅー、と深くそれを吐き出した。 「けど知ってっか? あれって全部”演技”なんだってな?」  え――? 「フツー、あそこまでエロいと案外ホントに感じちゃってんのかー、とかって思うじゃん? まあ、今回は紙面で静止画だからアレだけど、ゲイビだったら本番あるわけだし。けど紫月ってヤツの場合は最初っから最後まで演技らしいぜ? 絡みシーンでも全然勃たねえって話。相手のモデルなんかは結構ソノ気になっちまうらしいけどよ」  それを聞いて、何故だか知らないが少々意外に思えた。というよりも、実のところそんな内情までは想像する余裕もなかったという方が当たっているが、今の話を聞いて、これまた何故かホッとした感が湧き上がるのに、そちらの方が驚愕に思えた。つまりは、紫月というモデルが”仕事”という枠を超えたところで、”その気にならない”ということに安堵させられたというわけだ。無論、自覚はないものの、これがいわゆる興味から出た嫉妬であることは明らかだった。  遼二は話の流れついでに乗っ掛かるようにして、 「あの……紫月さんって、マジにゲイなんスか?」  気のいい先輩に甘んじるように、最も気にかかっていることを投げ掛けた。 「マジにって? ああ、実際もそうかって意味かよ?」 「……や、別に……しっ、紫月さんに限らずですけど……。ああいうモデルさんたちって、皆さんがそうなのかなって……」 「さあな。そうじゃねえのも勿論いるだろうし。けど紫月ってヤツはそうだって聞いたぜ? しかもここだけのハ・ナ・シ! 写真集同様、実際もニャンコだって話だぜ?」  急にヒソヒソ声でニヤけまじりにそんなことを囁かれて、遼二はキョトンと首を傾げた。 「ニャンコ?」

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