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episode3. 渦(10)

 独りになって誰にも邪魔されない所で見たい、というよりは誰にも知られない所でといった方が正確か、とにかく無意識にそう感じていたのだった。  先ずはファースト写真集の方からだ。別に順番通りにというわけじゃないが、何となく【1】から見なければいけないような心持ちになって、ファーストの方を手に取った。  表紙は墨色一色にエンボス加工がなされているようなシンプルなもので、一見しただけでは何の本か判別できないような仕様である。  最初のページを開くと、まず目に入ってきたのがサブタイトルの文字の羅列だった。昨夜ネット通販のサイトで見たのと同じものだ。  『朔夜編 - 新月に紛れて奪われるキミの一部始終を見ていたい』となっている。昨夜見た紹介文を少々もじってあるようだ。これが実のタイトルなのだろう。  いちいちそんなことを考えてしまうのは心拍数を抑える為か。既に足腰がくだけるような、軽い欲情状態に陥りそうになっていることが信じられなかった。  仄暗い闇に薄い雲が流れるような空の写真、そして深い木々に覆われた森が風に揺られてざわめくような写真へと続き、その次をめくれば古びた一軒の小屋のようなものが映し出されたショットが、わざとブレたような手法で写し出されている――  次のページを開いた瞬間に、一瞬息が止まるかと思う程の衝撃が襲い来た。  薄暗い小屋の中、藁のような素材で編まれた敷物の上に、着物姿のあのモデルが突き飛ばされたような格好で膝をつき、こちらを振り返っている。一之宮紫月だ。  今より若干若いからだろうか、それともデビューしたてで初々しいからなのか、先日見た当人のイメージに敢えて付け足すならば、”もっと付け入りやすい”とでもいうような雰囲気が漂うのに、一気に欲情を煽られる。たったこれだけでそんな気分にさせられるのは、まさに驚愕だった。  次をめくればその彼の表情のアップがしっかりと読者を見据えて、軽く睨みをきかせているようなショットが現れた。実際には読者を、というよりは彼の目の前に居るだろう誰かを見据えているという設定なのか。この時点で既に淫猥さをかもし出しているのには、正直すごい表現力だと、しばし欲情を忘れて感心させられる。  紫月という男の、モデルとしての演技力もそうだが、ここで遼二が感服させられたのは、どちらかといえば氷川の撮り方や見せ方の方だった。

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