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episode3. 渦(12)
腰の部分に儀礼的に引っかけられた着物、その脇に散乱しているのは鼻緒の切れたような男物の草履と解かれた角帯が何とも生々しくて、思わず目を背けたくなった。
先を見るのも不快に思えたが、意志とは裏腹に指先がページをめくり続けた。後半は『残月編 - 月光の下で乱される淫靡なオマエを壊したい』だ。
「は……っ、いい加減にしてくれよ――ッ」
何だか酷く苛立ってやまず、舌打ちが飛び出した。強姦系のショットなど見ていて気分のいいものではない。そのはずなのに自身の身体は明らかに興奮し、欲情をきたしているのがこれまた酷く不快だ。不愉快な苛立ちがどうしようもなくて、気分は最悪だった。
そんなウサを晴らさんと一旦、写真集を置いて、冷蔵庫からビールを持ち出し一気にそれをあおった。酒でも飲まないといられない、そんな気分だったからだ。
酒のせいで少々気が大きくなったのか、苛立ちのままにページをめくり、だが今度は先程とは打って変わった欲情にまみれるようなショットの連続に、視線は釘付け、目の前が歪む。
やはり前編と同じく和服姿だが、今度は自ら望んで抱かれているような甘美な表情が写し出されていて、一瞬、呼吸がとまりそうになった。
ページをめくるごとに脱がされてゆく着物、それにつられて乱れていく彼の表情と仕草。身を捩り、眉を震わせ、快楽に溺れる表情は正に官能という以外にない。
僅かに震える手で二冊目を開き、逸るように乱暴にページをめくった。
見知らぬ男性モデルと濃厚に絡み合う全裸らしきショットの連続、筋肉のついた腕に抱きかかえられて仰け反る背筋に揺れる髪、逞しい肩先にしがみつきながらクッと歪められた表情は達く瞬間のものなのか、男に抱かれ虚ろに空を漂う彼の視線を見ているだけでも喉が焼けつきそうになる。一冊目にも増して淫らな色香にあてられ、おかしくなりそうだ。ページをめくる手も汗ばみ、震え出し――得体の知れない怒りと興奮のままに写真集を見終えると、それと共に中津川から貰った刊行雑誌の方も手に取って、立て続けにめくった。
こちらには紫月の特集が組まれているらしく、内容は単独写真集に輪を掛けて過激なものだった。
先日目の当たりにした撮影の時と同じように、複数人によって拘束されるようなショットが盛りだくさんで、シチュエーションも現代風、和風と様々だ。挙句は縄に縛られたままで到達させられてしまったようなショットまでもが飛び出す始末――それらを目にするなりカッと身体中の血が逆流するような感覚に襲われて、遼二は思わず音を立てながらピシャリと冊子を閉じた。
「何、これ……」
アダルト写真集というからには何となく内容の見当はついていたつもりだ。だがまさかこれほどまでに衝撃的なものだとは思わなかった。それより何よりどうしようもなく熱を帯びた自身の身体の変調が苦しくて堪らない。真夏の炎天下でもないのにぐっしょりと汗ばんだTシャツが背中に張り付いて、暑いったらこの上ない。
言いようのないゾクゾクとした気持ちがついには行き場を失って、堪らずにベッドへと転がり込んだ。
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