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episode3. 渦(13)

 脳裏をチラつくのはこの上なく淫らな紫月の顔、肌、息遣いにそのすべて――  我慢できずにジッパーに手をかけ、摺り下ろし、すっかりと興奮しきった雄を僅かに擦っただけで、信じられないくらいの射精感に意識をもっていかれそうになった。  先走りがブリーフの布地に擦れて糸を引いている。  あっという間にヌルリと指に絡み付く白濁を腹の上にぶちまけて、整わない吐息に眉をしかめた。  男を想像しながらイってしまっただなんて、それこそ信じられない。驚愕だった。  解放した熱の後処理をする気力もないままに、ふとベッド脇のテーブルに放ったままの写真集が視界を過ぎれば、再び熱がうずき出す。その紙面で乱れる”紫月”を思い浮かべれば、すぐにもくすぶり出す欲情が背筋を這いずり、どうしょうもない気持ちにさせられる。と同時に言いようのない嫉妬で頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。  これを購入した見知らぬ誰かも同じような気持ちになったのだろうか。  彼の写真を見ながら、その誰かが今の自分がしたのと同じような行為にふけったのだろうか。恋焦がれ狂おしい気持ちを持て余し、来る日も来る日も彼を想像してはいやらしい妄想に乱れ、のたまったのだろうか。  そんなことを考えるだけで気がおかしくなりそうだった。  次に彼に会う時に、どの面下げて平静を装えるというのだろう。 「アンタのことを想像して抜きました、俺は完全にイカれてます……ってか?」  最悪だ―― 「は、マジでイカれてる……!」  そっと写真集に手を伸ばし、こちらを見つめる彼のアップを見ただけで、我慢できずに紙面の中の頬を撫でんと指が追う。 「……っう、くそッ、はっ……こんなん……」  紫月……紫月さん……っ!  今、ここにアンタがいたらきっと抱いてしまう。我慢できずにアンタのすべてを俺のものにしてしまいたい。あの写真の中でアンタを犯していた見知らぬモデルの男にとって代わりたい。  こんな気持ちになるなんて思わなかった。  男を相手にこんな行き場のないような気持ちを持て余すだなんて、思いもしなかったよ――!  ドクドクと身体中を逆流するような血脈の熱さに火照り出す欲情を最早とめようもなく、ベッドにうずくまりながら両の手で自身の肩を抱き締めた。  まるでこの腕の中におさまる紫月という男を連想するかのように幻を抱き締めて――  膨れる妄想のままに、鎮まらない雄を何度も何度も慰めた。  何度も――  そう、何度でも押し寄せる淫らな波に抗えず、もはや彼を知らなかった頃には戻れない激情の渦に呑み込まれては、すべてがカラになるまで欲情し尽くした夜だった。 - FIN -

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