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episode4. 癪香(4)

 ”遼二”というのは、氷川の事務所に入ってまだ日の浅い新米カメラマンということだが、つい先日の撮影の際にはいろいろとドジを踏んでいたのを思い出す。確かに顔やスタイルは氷川が自慢するのも納得の”イイ男”には違いないが、仕事の方はいまいち信用できないといった調子で、紫月は冷笑してみせた。 「今度は動画なんだし、またあんな調子じゃ困るっつーか、俺だって何度も同じシーンの撮り直しなんてイヤだぜ?」  少々毒舌気味だったか――  だが、こうでも言わないと落ち着かない。心の奥の方でくすぶっているような、ソワソワとした気持ちの原因を紫月は自覚していた。  遼二に関しては、確かに見た目は文句なしというか、一言で言ってしまえば彼の格好良さというのは認めるところだ。かくいう自身も、この前初めて彼を紹介された時にそう思ったからだ。少々癪だが、初対面で彼を見た瞬間にドキリとさせられたのも事実だった。  だからだろうか、何故か彼に対して必要以上に突っ掛りたい気持ちにさせられたりもして、彼がレフ板を引っくり返した際には意地の悪い言葉がついて出てしまったくらいだった。とにかくこんな気持ちは初めてで、紫月は戸惑ってもいたのだ。  それらを払拭したいが為か、今もまた毒舌が止まらない。 「なぁヒカちゃん、他にもっと慣れた人いないの?」  わざとぶっきらぼうにそう口走る。すると、すかさず中津川が、 「まあまあ! そう言うなって。ヤツはこの前が初めての現場体験だったんだし、衝撃受けちまうのも仕方ねえだろう? ゲイアダルト誌の撮影だって、事前にちゃんと説明しなかったコイツにも責任はあるってことで! ま、勘弁してやってくれ」  隣の氷川を指差しながら、まるで後輩を庇うように気遣ったのを受けて、氷川も苦笑しつつ加勢の言葉を口にした。 「ま、あれでいてなかなか根性はあるんだぜ? 早出、残業重なっても文句ひとつ言わねえしよ? カメラの手入れだってすげえ丁寧だし、よく気も付くしな。ヤツなら将来的にいいカメラマンになれるだろうぜ?」 「ふぅん? ヒカちゃんも中津川さんもあいつのこと”買ってる”ってわけ」  ふてくされ気味にそう言えど、内心はホッとしているのを自覚する。『他にもっと慣れた人材がいないのか』と訊いた言葉通りを真に受けられて、もしも本当に助手を変えられたら困る――などと、ちょっとでも思ってしまう自分に驚いてもいた。

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