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episode4. 癪香(5)

 そんな戸惑いをよそに、氷川と中津川の間ではまだ遼二に関する話題が続いている。 「ヤツは見掛けに反して性質は素直っつーか、ウブっつーか、可愛いところあるしな。仕事の合間には一人で写真撮りに出掛けたり、結構努力もしてるみたいだぜ?」 「まあでも、俺からしたら遼二はカメラマンってよりは……どっちかいったら”撮られる”側の方が合うんじゃねえかと思うけどな」  二本目の煙草に火を点けながら氷川がそう言ったのに、紫月は首を傾げた。 「撮られる側って?」 「ん、被写体の方ってことよ。あいつが初めて履歴書持って来た時に第一印象でそう思ったんだわ。例えばさ、お前とのツーショットなんかも撮ってみたらすげえいい絵になるんじゃねえか、とかね?」 「はぁ? 俺と?」  冗談だろうというように紫月は大袈裟に苦笑する。 「こないだ程度の撮影見てビビってる兄ちゃんだぜ? 俺とのツーショなんて有り得ねえだろって。つか、ヒカちゃんが撮りてえっつっても、ぜってーカンベンだぜ」  やはり毒舌がついて出てしまうのは、声がうわずるのを気取られないようにする為――などと思うこと自体、信じ難い。別段、そんなつもりはないのに、こと、この遼二というアシスタントのことになると、ついつい思っていることと逆のことばかり言ってしまうのは何故だろう。裏を返せば、それほど彼に興味を惹かれてしまっているようで、ますます頭はこんがらがるばかりだった。  そんな思いを知ってか知らずか、目の前の氷川はまた暢気なことを口にする。 「別にアダルトショットに限らずってことよ。お前ら二人並べたら、すげえ迫力あるやつ撮る自信あるわ! 絵になる、ならねえってのが直感でビーンと来んだよ、俺の場合」  既に撮る算段になったような口ぶりでそんなことを言う氷川に、紫月は苦虫を潰したように片眉を吊り上げて見せた。 「あのなー、一体何でこんな話になってんだよ? つか、ヒカちゃんがそこまで言うって……あいつ、よっぽど”買われて”んだな」  呆れたように紫月は目を丸くして、だがその実、悪い気もしないといったふうな上目使いで、冗談半分に軽く氷川を睨み付けた。 「まぁまぁ、二人とも! 遼二の奴はとにかくいいヤツだってのは確かだから。多少ウブで晩熟なところもあるけどよ、撮影にもその内慣れるだろうし、それまでは紫月君も大目に見てやってくれよ。な?」  中津川までがそんなことを言い出す始末に、紫月は唖然としたように彼らを見やり、だがそんなかばい合いが可笑しくも思えて、次の瞬間には三人でプッと吹き出し笑いをしてしまった。 「ああ、もうー……分かったって! じゃあその晩熟君共々、明後日の撮影はよろしく頼むぜ」  素直にそう言ってしまえば、驚くほどに気持ちが楽になるのが不思議だった。何だか心がワクワクするような、躍るような気持ちになって、紫月は照れ臭そうに笑ってみせたのだった。 ◇    ◇    ◇

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