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episode4. 癪香(7)

 遼二という彼は、今どんな表情をしているのだろう。そして、何と答えるのだろうか。それ以前に彼に抱き付いているこの男は彼の何なのだ。一体二人はどういう間柄だというのだろう。  次から次へと心拍数をあおるような疑問と想像に頭が混乱させられる。 「なあ遼二……!」 「んなこと……できるワケねえだろ」  抱き締められた腕を引きはがすようにして、遼二が男にそう言った。声音からすると、彼も少々困惑しているように思えるのは、単にこちらの都合のいい想像か。とにかく、今ここで自分が車に乗り込んだり、何か音を出したりすれば、彼らに気付かれてしまうのは必至だ。紫月はその場を動くことも儘ならずに、しばし息苦しい沈黙状態を崩せずにいた。 「何でだよ……今の俺の気持ち……一番分かってんのはお前だろ!? 少しくらい俺の我が儘聞いてくれたっていいだろうが……!」 「それは……。けど、それとこれとは話が違……ッ」 「一ヶ月だぞ! もう……一ヶ月も放っとかれてんだぞ! 分かってくれよ……気が狂いそうなんだよ俺……」 「……」 「じゃあキス! キスならいいだろ?」 「キス……って……」  遼二は困ったように溜息まじりで、だがすぐに『だめだ』と、否定の言葉を口にした。その様子に、男の方は今度は正面から彼の胸に抱き付くと、 「何だよ……! それもダメなの!? 前はしょっちゅうしてたじゃねえかよ! 会う度にお前から抱き付いて来て、あの頃はお前、すげえ可愛かったのによ……」 「……いつの話してんの。ンなの、ガキの頃のことじゃねえか」 「今だってガキのくせに――!」  ムキになったように男が叫ぶ。と同時に垣間見えたその容姿に、思わず息を呑んだ。 ――すげえ美形  それは素直な感想だった。遼二の腕の中で愚図る姿もドキリとする程に艶めかしく、顔のつくりだけをとってみても、俳優か一流モデルばりに雰囲気のある男だ。身長は遼二よりも若干低く、体つきもどこそこ華奢なのが一目で分かる。ゲイならば――いや、ゲイでなくとも、おそらくはほぼ万人が魅かれてしまうだろうくらいに魅力的な男だった。そして、何より意外だったのは、その男がかなりの年上に感じられたことだ。氷川や中津川と同じか、もしくはもう少し上のようにも見て取れる。こんな年上の、しかも思わず見とれてしまう程に美しい容姿――

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