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episode2. 魅惑の彼(1)
「紹介するよ。先週からアシスタントに入った鐘崎遼二 だ。まだ若いがいい感性を持ってる奴でね。ま、経験は浅いし手際の追いつかねえところもあると思うが、よろしく頼むよ」
師匠である氷川白夜 からそんなふうに紹介されて、鐘崎遼二は初対面のその男の前でペコリと頭を下げた。憧れの新鋭カメラマンである氷川の助手として使ってもらえることになって、数日めのことだ。
今日の撮影はちょっと珍しい部類だから覚悟しとけよ、とおどけ気味に言われて付いて来たスタジオで紹介された一人の男。一目でモデルだと分かるような雰囲気をまとったその”彼”は、酷く艶かしい色気を醸 し出していた。
遼二は、これまで氷川に連れられて三度ほどスタジオ入りを経験していた。そのすべてが今現在人気の女性ファッション誌の撮影だったこともあり、モデルに対しては見識ができつつあったというか、徐々に見慣れてきたというところだった。
普通ならおいそれとはお目に掛かれない、今をときめく美人モデルたちがすぐ目の前にいる。それだけでもちょっとしたカルチャーショックというか、とにかく驚きやら感動やらで軽い興奮状態、一時仕事に来ているということを忘れるくらいの衝撃だったのが記憶に新しい。
その氷川が少し含み笑いをしながら「今日の撮影は今までとは毛色が違うんでな」と、まるで楽しげに、ともすればからかうようにそんなことを言うものだから、酷く興味を惹かれて来たというのに、紹介されたのがこの男だったわけだから、なんだか肩透かしをくらったような気分にさせられてしまったというのが正直なところだ。
単にモデルが男だというだけで、つまりは男性ファッション誌の撮影というところだろうか。そんな大袈裟な前置きをするほど珍しいことでもないだろうに――と、遼二は小さな溜息を漏らさずにはいられなかった。
まあ、だが確かにこのモデルの男は一種独特の雰囲気があるというか、とにかく美形という以外に例えようがないような顔立ちをしている。
身長は一八三センチの自分と同じか――若干低いくらいだろうか、細身だがヤワな印象はなく、華奢というほどでもない。洋服越しにでも分かる筋肉も程よく付いていそうで、十分に男らしく魅力的な上に、薄茶色のやわらかな巻き毛が首筋あたりまである少し長めのショートヘアが額に掛かってなんともいえずに色っぽい。好み云々を抜きにしてほぼ万人が見惚れるだろうと思えるようなこの男は、モデルの中でも群を抜いているのだろうということは、如何に新米の遼二であろうとすぐに理解できた。
そんなことを考えながらしばしボーッと男に見とれてしまったというのだろうか、氷川にポカッと頭を小突かれて、遼二はハッと我に返った。
「何ボサッとしてんだ遼二! ほれ、挨拶! こいつは今日のメインモデルを務める一之宮紫月 だ。見ての通り抜群のイケメンの上に、この雑誌でもナンバーワン人気のモデルだからな。失礼のないように気を配れよー?」
見とれていたのがモロばれだというように、ニヤッと笑いながら氷川がそう言ったのに対して、遼二は少々バツの悪そうにペコリと頭を下げて見せた。
そんな様子に男の方はクスッとおかしそうに笑うと、いきなり至近距離まで身を乗り出すようにしながら、
「へえ、すっげイイ男じゃん? 助手なんかにしとくの勿体ねえくらいだな? よろしく遼二」
ニヤリと瞳を細めてそう言った。
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