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episode5. 誘惑(2)

 紫月はゲイ向けのアダルト誌で不動の人気を誇るといわれる程のモデルである。現在の役割は”ネコ”側で、相思相愛の濃い濡れ場シーンから無理矢理犯される強姦シーンまでをも幅広くこなす。整い過ぎてケチの付けようがないような顔立ちに加え、肢体は程よく筋肉もあり、だが決して隆々というわけではない細身の長身に加えて、タチ・ネコのどちらからも好かれるような曖昧な色香もダダ漏れとくれば、不動の人気も納得できるというものだ。  そんな彼を撮っているのが新鋭と賞賛されている氷川白夜(ひかわびゃくや)という写真家で、腕は確かなところにもってきて性質は気さく、その上結構なイケメンなので、紫月は彼が気に入っていた。  モデルの側からスタッフを指名するのは珍しいのだが、紫月ほどの売れっ子となると、多少の我が儘もまかり通るのか、毎度のように氷川を名指しで撮ってもらっているというわけだ。  その氷川がここ最近連れてくるようになったアシスタントの男――それが紫月を悩ませる張本人だった。  名を鐘崎遼二といい、氷川に憧れて助手にしてもらったという経緯らしいが、初めて彼を紹介された時には正直驚いたというのが本当のところだった。髪や瞳は一目で印象に残るほどの黒曜石のような深い漆黒で、顔の作りだけをとってみても、ハッとさせられるくらいに整っていた。その上、一八一センチの自身を僅かに上回る長身で、服の上からでもガッシリとした筋肉質だと分かるような見事な身体つきは、同じ男としては実際羨ましいほどだった。  一見にして、誰もが放っておかないだろうと思わせる外見からしても、写真家のアシスタントにしておくのはもったいないと思ってしまう。撮る側よりも”撮られる側”の人間だろうというのが第一印象だった。  それは彼の師匠である氷川も認めていて、遼二が履歴書を持って初めて事務所に訪れた時から、既にそんな印象を抱いたと言っているほどだ。今までそれ相応のイケメンといわれるモデルたちと仕事を共にしてきた紫月でも、ちょっとした動揺を覚えるくらいに遼二は印象的だった。  おそらくは男女問わずして相当モテるのだろうし、当然遊び慣れてもいるのだろう――と、そんな印象に相反して、実際の彼はひどく純粋だったのも憎いところだ。  最初の撮影時にはゲイアダルトの現場が初体験だったようで、衝撃を受けて機材をひっくり返すなどのドジをやらかしていた。顔を真っ赤にし、身体が反応してしまったのか、その場にうずくまったまま恥ずかしそうに動けないでいる様子も、堪らなく新鮮に映ったのを覚えている。そんなギャップも手伝ってか、日に日にこの遼二という男が紫月の中で気に掛かる存在になっていったのだった。

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