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episode5. 誘惑(7)
他のは”海”とか”花”とか非常に分かりやすいものなのに、これだけが随分と抽象的だ。彼がフォルダ名にまでする”麗しい”被写体とはどんなものなのだろう。紫月は無性に興味が湧いてしまい、逸る気持ちを抑えながらもそれをクリックした。ところがだ。
(――――ッ!?)
開いた瞬間に、マウスを持つ手がビクリと震えた。視線は画面を見つめたまま、瞬きさえ儘ならない。そこに写っていたのは、一人の男が欲情に身悶えるような官能ショットだったからだ。
(何……これ……)
被写体は男が一人だけ。相方となる誰かはおらず、だが明らかにエロティックな類いのショットに他ならない。まるで自慰でもしている最中のような表情の男が、服を乱しながらベッドの上で身悶えている。
震える手で次へ次へと写真を送る内に、もっと驚かされるようなショットを見つけて、紫月は硬直させられてしまった。
(こいつ、確か……)
そうだ。写っている男は紛れもなく、先日ホテルの地下駐車場で遼二に抱き付いていた年上の男だったのだ。
まるでモデルか俳優のように綺麗な顔立ちをした――例の男だ。遼二に縋り付き、抱いてくれ、キスしてくれとせがんでいたあの男――。
やはり彼らはただの顔見知りというわけではなく、深い間柄なのだろうか。だが、遼二はあの時、明らかに彼を拒んでいた。抱いてくれという彼の懇願をバッサリと振り切り、しかも他に好きな相手がいるからとまで言い切っていたではないか。
ではこの画像は何だというのだ。それともこの男と遼二は過去に付き合っていて、今はもう別れたとか、そういった仲なのだろうか。とにかく紫月にとっては衝撃も衝撃、思考も停止してしまうほどのショッキングな写真であるに違いはなかった。
しばしぼうっとしたまま固まってしまっていたのだろうか、『どうぞ』と言って差し出されたコーヒーカップの置かれる音で、ハッと我に返った。
「さっきのファミレスでも飲んできたから、どうかと思ったんですが……。豆から挽いて淹れたんで、よろしければ――」
やわらかな笑みと共にそう言われた遼二の声で、紫月は呆然と視線だけを彼へとやった。
その様子をヘンに思ったのだろうか、小首を傾げながらパソコンの画面を覗いた遼二が「あッ!」と焦ったような声を上げた。
やはり見られたくなかったのだろうか――慌てたその表情を横目に、紫月は感情のないような声でひと言、
「これ、誰?」
遼二の方へは視線を合わせないままでそう訊いた。
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