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episode5. 誘惑(8)

「あ……っと、それは……知り合い……なんです」 「知り合い――?」 「え、ええ……。あの、俺……紫月さんたちの現場をお手伝いさせていただくことになってから……その、少しでも雰囲気に慣れたくて……知り合いに頼んでモデルになってもらったんです」  ということは、過去に撮られた写真ではなく、つい最近のものというわけか。それ自体にも衝撃を受ける。 「ふぅん……。この人、ゲイモ? 俺、見たことねえけど……」  そう訊く声にも感情は見られず――だ。紫月は未だ無表情のままで、ずっとパソコン画面を見つめている。 「ゲイモ……?」  遼二の方は焦って声を上ずらせながらも、聞き慣れない言葉に首を傾げる。 「ゲイモデルのこと! 略してゲイモ」 「あ、ああ……そういう意味でしたか」 「すっげ美形だけど、どんな知り合い?」  つい、ぶっきらぼうな物言いになってしまうのは致し方ないか――衝撃を悟られたくなくて、紫月は高飛車に訊くことしかできずにいた。 「ずっと……昔からの知り合いです。他に……頼める人がいなくて……」 「やっぱお前が撮ったんだ?」 「え、ええ……」 「……上手く……撮れてるじゃん」 「あ……りがとうございます……」 「お前の撮り方が上手いのか、モデルの人の表現力がすげえのか……どっちにしろいい写真だよ」  言葉上では褒めつつも、顔は笑っていない。感動したというわけでもなく、かといって、けなしたいわけでもなさそうで、全く本心が読み取れないような言い方に、遼二の方は困ったようにペコリと頭を下げるのみだ。気まずい空気が重苦しく、二人の時間を止めてしまうかのようだった。 「この人、プロ? 俺、マジでゲイモ仲間じゃ見たことねえけどよ。どっか他の雑誌社のモデルなんかな……」  カチッ、カチッとマウスをクリックしながら写真を次、次へと送り、独り言のように紫月が言う。 「あの……そいつ、ゲイモさんじゃないんです」  そう言った遼二の言葉で、紫月はようやくとクリックする手を止めた。  斜め横に中腰で立ったままでいる遼二を見上げ―― 「ゲイモじゃねえって……」  それなら知らなくて当然だ。  だが、では素人がこうまで堂々とカメラの前で脱げるだろうか――。しかも自慰で”イく”瞬間を連想させるような淫らな表情は、珠玉と言わざるを得ない。仲間内の本職のモデルたちにも引けを取らない見事な演技力だ。いや、引けを取らないどころか、本職も真っ青といった方が正しいか。紫月は正直なところ、酷いショックを隠せなかった。 「素人なら……すげえじゃん。俺よか、よっぽどイケてる――」そう言うと、 「そんなことありませんよ! 紫月さんとは比べものにならないです!」遼二は慌てたようにして否定した。

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