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episode5. 誘惑(9)

 そして再び、二人の間を沈黙が襲う。  なんだかモヤモヤとした気持ちが胸を掻き乱すようだ。 「あの、珈琲……冷めない内に……よろしければ……」  重苦しい空気を破るように遼二がそう言ったのに対して、紫月は無言のまま、出されたティーカップを高飛車な態度で口へと運んだ。 ◇    ◇    ◇ 「なあ――」 「……はい」 「撮らしてやろっか」 「――え?」 「だから俺を――! 早くゲイアダルトの撮影現場に慣れてえんだろ? だったら、素人の知り合いに頼むよか、本職の俺を撮ればって言ってんの!」 「……紫月さんを……俺が……?」 「そ! この彼も確かにイケてるけどよ。俺ならもうちょいキワドイの撮らしてやれるぜ?」 「際どい……って……」 「これ、自慰シチュだろ? 相方モデルもなしで、よくこんだけエロい表情できるなって感心だけどよ。俺、いちおプロのゲイモだし! 相手いなくても強姦シチュも演れるし!」  紫月はそう言うと、すっくとソファから立ち上がって、ベッドへと向かってしまった。 「あの……! 紫月さん……!」 「カーテン閉めてい?」 「え、あの……ええ、構いませんが……。や、あの、俺やりますから!」 「いいって! それよか、早くカメラ持って来いよ」 「あ、はい……ですが、その……」 「もちろん、ヒカちゃんや中津川さんたちには内緒にしとくって! 誰にも言わねえし」  師匠の氷川に内緒でプロの紫月にモデルになってもらうわけにはいかない――そんな言い訳を聞きたくなくて、紫月は先を読むようにそう言い放った。  絶対に嫌だとは言わせない――  ”まだ新米の自分にはそんなことできません”そんな言い訳は聞きたくない。  何が何でも有無を言わせないといった紫月のオーラの押されるようにして、遼二は困惑気味ながらもカメラケースから機材を取り出したのだった。 「で、どうする? シチュとかポーズ、お前の撮りてえの言ってくれれば注文通りに何でも従うぜ?」 「あ、ああ……はい。あの……」 「ンな畏まることねえだろ? さっきのあの人のも――上手く撮ってたじゃん。あれ、お前がポーズとか指定したんだろ?」 「いえ、あれはアイツが適当に……」 「あいつ……ねえ。その彼が適当につけたポーズってこと?」 「ええ、まあ」 「そんで自慰シチュかよ。ま、相方モデルがいねんじゃ自慰くらいっきゃ()りようがねえっか」  遼二はカメラを構えたままで硬直状態だ。その頬には薄らと紅色が射している。  そんな様子を横目に見やりながら、紫月は不敵に苦笑が漏れ出してしまうのをとめられない。

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