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episode5. 誘惑(10)

「それにしても――フォルダ名が”麗しい”ってさ。何が写ってるかと思いきや、ちょっとビックリだったわな」  緊張状態を崩せず、いつまでたってもポーズの指定すら口にできないでいる遼二に苦笑しつつも、紫月は鼻で笑うようにそんな会話を繰り出す。すると、慌てたようにして、遼二が否定した。 「あれは……! 麗しいとかじゃないんです……! あいつの名前、(れい)ってんです。だから、その……」 「名前……?」 「ええ。撮りっ放しで、まだフォルダの整理もしないまま、とりあえず放り込んでおいただけなんで……」  (れい)――それがあの綺麗な年上の男の名だというわけか。あの容姿にして、その名前。何とも出来過ぎているようで、心の奥底の方からモヤモヤとしたものが湧き上がる気がした。  意味もなく苛立つような、急に暴れたくなるような、おかしな気分だ。しかも彼を呼ぶ遼二の言い方が”あいつ”――。まるで親しげなその呼び方にもズキズキとした何かが身体中を苛むようだ。急激に暗雲に包まれるような嫌な感覚に少しの恐怖すら覚えて、紫月はますます高飛車に口元をひん曲げ苦笑した。 「お前さ――、あの人とどういう関係なわけ?」 「どうって……」 「もしかして……彼氏――とか? ンなわきゃねっか。お前、ノンケだろ?」 「ノンケ?」 「ノーマルって意味! いくら知り合いだ、ダチだっつっても……あんな写真撮らしてくれるヤツなんて、そうそういねえだろうから、もしかして恋人同士なのかって思っただけ」 「こ……ッ、恋人って……! 違いますよ! あの人はただの……」 「――ただの?」 「……腐れ縁なだけです」  紫月はベッド上に寝転がったまま、片や遼二はカメラを持って突っ立ったままで、取り留めもない会話だけが繰り返される。 「なあ、お前――恋人いんの?」  枕元にルーズに畳まれてあった遼二のカットソーに手を伸ばし、それを弄びながら紫月が訊いた。 「い……ませんよ……! 恋人なんて」 「ふぅん? じゃ、好きな娘は?」 「い……ません」 「いねえ――?」  この前、あの綺麗な男に訊かれた時は、好きな相手がいると言っていたのに――!  咄嗟のことで嘘を付いたわけか、それとも出会って間もない間柄の自分に本当のことを打ち明けるつもりがないだけなのか。紫月はとっ散らかる気持ちを振り切るかのように、撮影に集中することにした。 「ま、どうでもいっか――! ンなことより、撮ろうぜ。シチュは……お前が決められねえってんなら、俺主導で勝手に演らしてもらうけど――」 「あ、はい……! すみません、お願いします」  真摯にペコリと頭を下げる様子に、焦れた気持ちがジワジワと身体に火を点けるようだ。 「じゃ、仕方ねえ。こういうのはどう? 目の前の――頭の固え恋人を誘惑して、その気にさせるってシチュ」  紫月はいきなり片方の手を上げながら、じっとカメラのレンズを見つめた。

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