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episode5. 誘惑(11)
伸ばした手でカメラを持つ遼二の指先に触れ、誘うように撫でてみる。ゆるゆると手の甲をなぞり、早くどうにかされたくて堪らないんだといったふうに視線を潤ませる。
そうされて焦ったわけか、カメラを持つ手を僅かに震わせながら硬直している彼に、またもやぶっきらぼうな言い草で、
「どした? 早くシャッター押せって」
余裕の冷めた目つきで見上げながらそう言った。
「あ、はい……! すいません……!」
促され、慌てて押されるシャッター音も心なしか焦燥気味だ。
「ンな、緊張すんなって! 今、俺はお前に抱かれたくてたまんないお前のコイビトってシチュなんだから」
「こ……いびと……」
「早くどうにかして欲しい、お前にもその気になって触れて欲しいっていう俺の願いを――お前が感じるままに言ってくれたら、俺はその要望通りに演じるぜ?」
「要望……」
「受け入れる? それとも拒否る?」
「拒否るなんて……有り得ません! 勿論……」
「受け入れる――でいいのな?」
「はい――」
「そう――じゃ、もっとこっち」
紫月はいきなりカメラを持つ腕ごとグイと引き寄せると、今にも頬と頬とが触れ合うくらいの距離で瞳をとろけさせた。
「ちっと撮りづれえだろうけど、ガンガンシャッター押せよ。お前が感じるままに撮りまくってみろ」
そう言うや否や、紫月は自らのシャツのボタンを外して、大胆な程に胸元をさらけ出してみせた。
「ずっと……こうされたかった……。お前ンこと考えながら……毎晩自分で慰めてた……。お前にめちゃくちゃにされること想像して……抜きまくった……俺……!」
だからもう待てない。もう我慢できない。その言葉に代えて身体中で目の前の”コイビト”を求めるかのように、終にはベルトを緩めてボトムのジッパーに指を掛ける。
ジッ――と、それが下ろされる音とシャッター音が重なり――至近距離の二人の間の空気は溶岩が流れ伝う山肌に立っているかと思えるくらいに熱にまみれていった。
「触って――」
ジッパーをおろし、開き、瞳を潤ませる。
カメラを持つ手と反対側の手を取り上げて、ボトムの中へと引きずり込んだ。
「な、どんだけお前ンことが欲しかったか……分かるだろ?」
硬くなり始めた熱い雄の感覚を、下着の上からなぞらせる。
「し……ッ、紫月さん……!」
「何――? 拒否るなんて有り得ねえって――言ったじゃん、お前」
だからこうして誘っている。早くシャッターを切れと言わんばかりに、頭上の彼を軽く睨み付ける。
「焦ってる場合じゃねっだろ? これは演技なんだから。お前はそういう俺の演技を見て、感じたままに撮ればいいんだって」
あくまで”演技”を主張して、もっともっと淫らな仕草で甘えてみせた。
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