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episode5. 誘惑(15)

「……ありがとうございます。紫月さんも……ゆっくりお休みください」 「ん。さんきゅな。んじゃ……おやすみ」 「おやすみなさい」  通話の切れたスマートフォンを手に、ベッド上へとダイブした。大の字になって天井を見上げる――。  ゆっくりと瞳を閉じれば、瞼の中の頭上に遼二の姿が浮かぶようで、紫月はクッと瞳を震わせた。  つい先刻の――激しい口付けが脳裏に浮かべば、次第に背筋をゾワゾワとした欲情が這い上がる。まるで野生の獣のような激しいキスだった。硬く、大きく張り詰めた彼の熱。ほんの一瞬だったが、それを直に握らされた時の感覚が蘇れば、指先もビクリと震える。 『犯罪者になってもいい――もう我慢できない――』  そう言った彼の、色香に塗れた低い声をも思い出せば、堪らない情欲が身も心も焦がすようだった。 「遼二……遼……! あ……っう……ッ」  今すぐここに来て欲しい。そしてさっきと同じように、堪え切れないあの声で求められたい。  もしも今、仮にしもインターフォンが鳴って、ドアの向こうに彼が立っていてくれたとしたらどんなにか――!  紫月さん、すみません。どうしても――会いたくて来てしまいました。そんなふうに言ってくれたら、どんなにいいだろう。  それに――遼二が撮った”麗”という男と彼の関係も気になるところだ。先程までの遼二の様子からすると、本当にただの知り合いなだけで、以前に付き合っていたとかいう特別な関係ではないのかも知れない。だが、あんな際どい写真のモデルを平気で引き受けるということは、やはりそれ相応の親しい関係であることは確かだとも思える。紫月は、遼二のすべてが頭から離れずに、甘苦しい思いに悶えるしかなかった。  もう何もいらない。ゲイアダルト界のトップモデルとしての地位も、人気も、同僚や後輩からの憧れの眼差しも――何もかも――いらない。  あの遼二さえ側にいてくれたら。  あの遼二さえ自分を求めてくれたら――他にはもう何も望むものなどない……! 「……ッ、や……はぁ、遼二……ッ、遼……ッ!」  シャツを開け、胸飾りの突起を弄り、まるで彼の手にそうされているような錯覚にさえ陥り―― 「あ……もっと、触って……。こんなんじゃ……全然足りね……! ここ、そう……ここ……に、お前の……」  お前のその熱で貫かれたい。満たされたい。ジッパーを下ろし、擦り、撫で、それだけでは到底足りずに自らの指で後ろを掻き回し―― 「りょ……じッ……はぁ……遼二……」  遼ーーー!  大袈裟なくらいの吐息と嬌声を、ただ独りの部屋に轟かせながら紫月は果てた。ポタポタと肌の上に舞い散る白濁と共に、双眸からはポロリとひとしずくの涙があふれて伝った。  もう独りには戻れない。  彼を知らなかった頃には戻れない。  もう分かっている。  もう認めている。  俺はお前に惚れている――  そんな自身の恋情を持て余しながら、紫月は自らの両肩を抱き締めた。まるで彼の手でそうされる想像を脳裏に描きながら――甘く苦しく、切ない涙に明け暮れたまま、眠りに落ちたのだった。 - FIN - 次、エピソード「飛べない蝶」です。

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