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episode8. お前だけのモデル(4)

「よう! 来たな。お前さんもなかなかにカッコいいじゃねえか」  紫月に気付いた麗がニヤッと笑いながらそう声を掛ける。側に立つ遼二は、視線が合うと僅かにその頬を朱に染めたのに気が付いて、紫月もまた同じように頬を紅潮させた。 「今日はありがとうございます。皆さんのご厚意に応えられるように俺も精一杯やります。よろしくお願いします」  今一度真摯に頭を下げる。麗はそんな紫月を前にして、満足そうにうなずくのだった。 ◇    ◇    ◇  そしていよいよ撮影が始まった。  最初は組織のボス・麗が麻薬取締捜査官の遼二を罠に嵌めて、自身のアジトで拘束しているという場面からだった。打ち合わせ通り、二人の顔は出さずにシルエットだけでの撮影が進んでいく。 「気分はどうだ? そろそろ素直に俺と愛を交わす気になってきたか?」  余裕の笑みと共に麗が問う。遼二は後ろ手に縛られた状態で椅子に座らせられていた。 「ふざけたことを抜かすな……! 仮にも俺はマトリだぞ……! この拘束から解放されたらすぐにお前らをふん縛ってやるから覚悟しろ……」 「ふふ――。威勢のいいのは結構だが、この状況でどう吠えようが無駄ってもんだ。それに――お前さんはもう”マトリ”じゃねえ」 「……ッ!? はぁ!? 何言ってやがる……」 「教えてやる。お前さんの元いたマトリ連中の間では、既に警察組織を裏切って俺らの仲間っていう認識になっているはずだ」 「……!? どういうことだ……ッ! いったい何をしやがった……!?」 「俺がお前を気に入ったからな。ちょっと裏の手を使ってお前さんの帰る場所を失くしてやっただけだ。まあ案ずるな。お前さんに不自由はさせねえよ。これからは俺の元で贅沢三昧させてやるぜ」 「ふざけたことを……ッ!」 「俺は本気さ。お前さん、なかなかにイイ男だからな。容姿は勿論のこと、その真っ直ぐで一生懸命な性質も気に入った。お前なら他人を裏切るなんてこともなさそうだしな。一生俺の側で望むがままの生活を約束するぜ?」 「……俺はそんなことを望んでなどいない! あんたの側で……なんて、悪い冗談にもほどがある」 「ふん、可愛げのねえヤツだな。だが、俺はすべてが極上だぜ? 一生掛かったって使い切れねえくらいの金、贅沢な生活、他人からの敬服の視線、有り余るほどの自由な時間、普通の人間なら喉から手が出るほど欲しがるもんが思いのままだ」 「――ンなもの、あんたの思い上がりだ。誰も彼もが金と贅沢に釣られると思ってる時点で大きな勘違いってもんだろうが……!」  遼二は真っ向から抗議を続けたが、麗は聞く耳を持たないようだ。

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