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episode8. お前だけのモデル(5)

「それだけじゃない――俺はこっちも極上だぜ? 一度味わったらお前さんも虜になって俺から離れられなくなるくらいに――な?」  麗は遼二の膝の上へと(また)がると、妖しげな笑みを浮かべながら両の掌で真正面から彼の頬をすくい上げるように包み込んだ。 「……ッ!? 何……しやがる!」  麗は遼二を挑発するようにその目の前で自らのシャツのボタンを一つ二つと外してみせた。そして、身体の中央――自らの(おす)を遼二のそれへと擦り付けんばかりに淫らに腰を揺すり始める――。 「……何してんだ、あんた! ふざけてんじゃ……ねえよッ……!」 「俺は至って真面目さ。ふざけてなんぞいねえな」 「……クソッ……いいからそこを退け! 退かねえか!」 「今から俺の極上の味を教えてやろうってんだからな。有り難く思えよ?」 「はぁッ!? ワケの分かんねえことを……」 「それに――! そろそろお前さんも我慢ができなくなってくる頃合いだと思うがな」  不敵な笑みでそう言われた瞬間に、遼二はゾワリと背筋を這い上がる自らの変調に気が付いて蒼白となった。 「てめぇ……何しやがった……ッ」  麗が腰を揺する毎にゾワゾワとした感覚が身体中を苛んでいく。欲情の感覚に他ならなかった。 「……ッそ……! 何を盛りやがった」 「安心しろ。俺を抱くのはお前だ」 「あ……はぁ!?」 「物分かりの悪いヤツだな。俺に突っ込ませてやるって言ってんだ」 「……ッ!?」 「俺は極上だ。たっぷりいい思いさせてやれるぜ?」  冗談じゃない!  そう思えども、身体は既に遼二の意思とは裏腹に、目の前の淫らな獲物を欲するようにみるみると自身を裏切っていった。  そんな二人の周囲では氷川と中津川が余すところなく画面に収めている。掛け合いは見事という他なく、その場の誰もが視線を釘付けにされてしまうほどだった。もはやこれが演技だということすら脳裏から飛んでしまうくらいに臨場感が半端ない。撮影を見ているスタッフの誰もがこの先の展開を固唾を呑んで待ち受けるといった顔つきでいた。――と、ちょうどその時だった。  麗の組織の部下たち数人に引き摺られるようにして紫月が姿を現した。いよいよここから三人での絡みへと突入だ。 「……紫月……!」  それに気付いた遼二が彼の名を呼ぶと同時に、ボスの麗がニヤッと笑った。 「これで役者が揃ったな。紫月、お前さんにもいいもんを見せてやろうと思ってな」  ボスの部下たちに拘束されながら、紫月は目の前の状況に瞳を見開いた。そこには後ろ手に縛られた遼二が半裸さながらの麗に跨られて、欲情と戦っているといった驚愕の光景が広がっていたのだ。 「この男にはとびきりの秘薬を盛ってやった。こいつの意思がどうあろうが逆らうことなんざ到底できねえってくらいの強烈なヤツだ」 「何だって……!?」 「今はまだ強情張ってやがるようだが、それもいつまで持つか見ものだなぁ。こいつが俺に溺れていくさまを――てめえはそこで何もできねえまんま、存分に見届けるこったな」  それが組織を裏切った制裁だとでも言わんばかりに麗は高笑いをし、薬に翻弄される遼二のボトムのジッパーをこれみよがしの音と共にずり下ろしてみせた。 「ボス……あんた、なんてことを……! あんたが恨んでんのは俺だろ! そいつは関係ねえだろが!」 「確かになぁ。俺を出し抜いてマトリなんていう――俺らにとっちゃ最も危ねえ野郎に寝返ったのはお前だがな。しかも――だ。お前はこいつに惚れちまったっていうじゃねえか。愛だの恋だの、生っちょろいことに(うつつ)を抜かしやがって、この俺を裏切りやがった! 幹部にまで引き上げてやった恩を仇で返されるとは思ってもみなかったがな」 「……ッ、何……を」 「俺がお前を直接仕置きしてやるのもオツだと思ったが、実際はそんなんじゃ腹の虫が治まらねえ。お前にとっちゃ、こっちの方がよっぽど堪えるだろうよ?」 「……やめろッ! やめねえか!」 「くく……どうとでもわめくがいいぜ。てめえの惚れた男が俺を欲するザマを指咥えて見るがいい!」  麗は嘲笑いながらそう言って、遼二のシャツをビッと引きちぎった。

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