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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(1)
「ねえ、麗 ちゃん。ホントに行くの?」
「当たりめえだろ。今更何だ」
窓の外を飛んでいく景色を眺めながら、不機嫌そうに眉根を寄せる。後部座席に深く背を預けるその男の手には二冊の写真集が握られていた。
「氷川フォトスタジオだっけ? あとニ十分くらいで着いちゃうけどさ……。やっぱりアポなしでいきなり訪ねるってのはマズいんじゃない? 電話の一本くらい入れてから行った方がいいと思うんだけどなぁ」
運転手をする若い男の嗜めを聞き流しながら更に不機嫌をあらわにすると、後部座席の男は「チッ……」と小さく舌打ちをしてみせた。
「アポなんか必要ねえよ。それじゃ抜き打ちにならねえだろ」
「抜き打ちって……。遼二君はまだ氷川氏のところに勤めてから日も浅いんだよ? 仕事中にいきなり押し掛けて、彼の立場が悪くなったらどうするのさ」
「……ふん! そんなもん、知ったことかよ。それに――これは遼二の為を思ってのことだしな」
「遼二君の為って……ねえ。僕には単に麗ちゃんのヤキモチにしか思えないけど」
「うるせー。ごちゃごちゃ言ってねえで、ちゃんと前見て運転しろってのー!」
麗ちゃんと呼ばれた男は、更にふてくされたように頬を膨らませてみせた。
薄い褐色のサングラスから覗く瞳はキツめの眼光を放ってはいるが、大きくて形のいい二重だけをとってもかなりの男前だ。それに似合いの色白の頬は、高級な陶器のようにキメが細かく美しい。鼻梁の高く通った鼻筋にぷっくりとしたやわらかそうな唇、髪はふわふわとした天然癖毛ふうのミディアムショートが顔周りを覆っている。車の後部座席に埋もれるように高飛車な態度で背を預け、組んだ長い脚を窮屈そうに投げ出している。良くも悪くも一目で他人の視線を釘付けにしそうなこの彼は、一見したところ一之宮紫月とよく似た印象の男だった。ただ、紫月よりはかなり年齢的に上という感じである。そして、この男が今から訪ねようとしている行き先は遼二の勤め先である氷川の事務所というわけだ。そう、何を隠そう――彼は遼二がフォトフォルダに”麗”と名付けて保存している被写体の男だったのである。
「ところで麗ちゃん、遼二君のモデルをやってあげたとかって聞いたけど、本当なの? 彼、今はゲイ雑誌の撮影を担当してるんだっけか?」
「ああ――。遼二の野郎、早くゲイアダルトの雰囲気に慣れてえっていうから、モデルになってやった」
「へえー。ってことは麗ちゃん、遼二君の前で脱いだんだ?」
「まあな。けど、ヤツにとっちゃ俺のハダカなんぞガキの頃から見慣れてんだから。慣れるもなにもねえんだが、あんまり一生懸命なんでせいぜいエロい雰囲気撮らせてやろうと思ってよ。ヤツの目の前でマスターベーションしてやった」
「ええー、マジで!? 麗ちゃんってば、相変わらず大胆だねー。それじゃ遼二君も焦っちゃったんじゃないの?」
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