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episode7. 蜘蛛からの挑戦状(2)

「ふん、大胆もクソもあるかよ! この俺がそんだけサービスしてやったってのに、あいつときたら……! 焦るどころか顔色ひとつ変えずに次のポーズはこうしろとかああしろとか、一丁前に指図しやがる。挙げ句は『イくところまではやらなくていいからな』なんて言いやがって……! ったく、俺を何だと思ってんだって……」  ムスーッと口を尖らせてそう言い放った彼に、運転手の男は堪らずに爆笑させられてしまった。 「あははははっ! おっかしいー! それは麗ちゃん、災難だったねえ」 「……ッ、笑うんじゃねえよ。俺は少なからずあいつの態度に傷付いたんだからよー」 「ははは、ごめんごめん! だって……その時の様子を想像したら可笑しくてさ!」  運転手の男は未だ腹を抱えながら笑いを堪えている。ともすれば涙目になる勢いの大爆笑だ。そんな彼をキキッと睨み付けながら、麗と呼ばれた男は運転席の背に手を掛けて身を乗り出すと、 「おい、こら倫周! てめ、いい加減に笑い止まねえとシバくぞ!」  そう言って拳を振り上げるフリをした。  運転手の男の名は倫周というらしい。麗よりはだいぶ年下のようで、遼二と同じくらいか、少し上といったところか。そんな麗と倫周だが、互いに思ったことをポンポンと言い合える仲なのは確かなようだ。ふてくされた麗を宥めるべく、未だ車内での会話は続いた。 「ところで麗ちゃん、遼二君に恋人ができたっていうのは本当なの?」  ようやくと笑い止んだ倫周が訊いた。 「――それを今から確かめに行こうってんじゃねえか」  麗は手元の写真集らしき本をめくりながら、再び眉根を寄せた。 「遼二の野郎ったら……嘘か本当か知らねえが、好きな()ができたなんて抜かしやがるから――」  興味を捨てきれなかった麗は、事実を確かめるべく遼二の自宅を訪ねたのだが、そこで彼が仲睦まじそうにしながら男と一緒に帰宅するところを目撃してしまったというわけだ。しかも、一見しただけで彼らが単に友人というだけではないことが分かってしまうくらいの妖しげな雰囲気だったのだ。  好きな()というからに、相手が女性だと思って疑わなかった麗は、少なからず驚かされるハメとなった。まさか遼二の好いた相手というのは一緒にいたあの男のことなのだろうか。ますます興味に火が点いてしまい調べると、その男はゲイアダルト誌のモデルらしいということが分かった。名を一之宮紫月といい、その世界では人気絶頂のモデルだ。その上、どうやらその紫月という男とは、現在遼二が担当している撮影で知り合ったという経緯のようだった。  紫月がどういう人物なのか、これまでどういった仕事をしてきたのかということを知りたくなった麗は、すぐさま彼の載っている雑誌等を探し、入手した。今、麗が手にしているのがまさにそれで、過去に二冊出されたという紫月の写真集だった。

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